第1話 出会い

ずんちゃ、ずんちゃ
トレーナー「パン、パン、パン…、ほらそこ、もっと脚上げて!」
ステラ「ヒー、ヒー」
ユリ「ウチらのような子供にこんなヒール履かせて踊らせる…これはもお虐待なんじゃ…」
ヒョヨン「(はぁはぁ)これやったら頭でクルクル回っとる方がましやなぁ」
ソヨン「(はぁはぁ)そらぁあんたはブレイクダンスできるからええけど、ウチには脚でも頭でもしんどいのは同じやわ」
トレーナー「無駄口を叩かない!」
♪ジャンジャージャジャン、ジャージャ、ジャンジャージャジャンスターウォーズ:帝国のテーマ)
スマン「精が出るな」
トレーナー「あ、これはスマン先生(直立不動!)」
スマン「かまへん、続けて続けて」
ジェシカ「(わ、イ・スマンや。練習室に来るなんて珍しいやんけ)」
ユナ「(ひょっとしてウチのドラマ主演でも決まったんか?)」
ヒョヨン「(中国留学の資金出してくれるゆう話ならええけどなぁ)」
スマン「さ、入りい」
テヨン「あ、あい(もじもじ)」
ステラ「(なんや、新入りか。それにしては器量悪いな。デブやし)」
ヒョヨン「(えらいちっちゃいで。まだ小学生とちゃうか?)」
ソヨン「(こんな子供、ウチらのレッスンについてこれるんやろか?)」
トレーナー「ちょっと、勝手に動きを止めない」
スマン「まぁええ。ついでやから紹介しとくわ」
トレーナー「へえ…ほな休憩や。みんな、先生にご挨拶し」
全員「(やた、休めるで)先生、アンニョンハセヨー!」
スマン「うむ、みんなアンニョン。今日は新しく仲間になるかもしれん子を連れて来たで。ほれ、挨拶しぃ」
テヨン「(おどおど)ア、アニョハセヨ。ワ、ワシゃキム・テヨンゆうけぇ。ど、どうかよろしゅう」
全員「ぷっ(ひどいなまり。どこの田舎もんや)」
スマン「テヨンはずっとアカデミーで歌の勉強しとったんやが、ボーカルトレーナーのチョン・スンウォン(THE ONE)がえらい押すよってな、今度の選抜大会に出そ思てる。
  その結果によっては正式に練習生としてみんなの仲間になるさかい、見学に連れてきたんや」
ユナ「(結果次第て…ここに連れてきてる段階でもう仲間入り確定やないか)」
ステラ「(ノレチャン(最高の歌)賞て数千人から選抜されるはず。この田舎猿にそんな実力が?)」
ヒョヨン「(こいつがアイドルになれるゆうんやったら、ウチも確実にスターやな。ちょっとは希望がもてるゆうもんや)」
ジェシカ「(すっ)歓迎しますわ、キム・テヨンさん。あたくしはジェシカ・ジョン。おサンフランシスコで生まれ育った、おバイリンガルですのよ」
テヨン「ほわー、ぶちべっぴんさんやー」
ソヒョン「お蝶夫人はめっちゃ歌上手いねんど」
ジェシカ「誰がお蝶夫人や!」
ステラ「自分も歌でチョングベ大賞(全体優勝)狙とるんやったら、一曲聴かせてーな(ニヤリ)」
テヨン「い、いや、ワシゃそがぁな…」
ジェシカ「ほほほ、無理を言っては駄目よ、ステラさん。
  テヨンさんは、あたしたち練習生と違って、お金を出してアカデミーに通ってらっしゃる身分なのだから」
ユナ「えーなぁ、金持ちは。オタマジャクシなんて食ったこともないんやろな」
テヨン「(むか)ワ、ワシげかて特別金持ちやらないけーねー。おとやんが無理して毎週ソウルに通わせてくれちょるけ」
ステラ「(ふん)週一のレッスンでどうにかなるほど甘い世界やないど」
ヒョヨン「確かにウチら学校へも行かず、朝から晩までレッスン漬けやもんな」
ユリ「仲間になるならない以前に、ウチらのレッスンについて来れるかが問題やな」
スマン「それはワシもちょっと心配しとる。歌は大丈夫やけど、ダンスのレッスンをしたことがないよってな」
ジェシカ「(ピキ)歌は大丈夫?」
ステラ「(そんな逸材なんか?)」
ソヨン「いやいや、シカより上手い訳あらへん」
ジェシカ「なら是非聞かせて欲しいわね。自慢の歌声を」
テヨン「ちょっと、おっちゃん!」
スマン「構うことあらへん。ちょっと歌ってみい」
ジェシカ「ふんっ(拍手)」
全員「(パチパチパチ)」
テヨン「ほ、ほな、『帰去来辞』を」
全員「(なんやその選曲。ド演歌やんけ)」
♪うぉ〜、うぉ〜、うぉ〜、うぉ〜…
 は〜ぬる あ〜れ たんぎっご くうぃえ ねが いすっにぃ (← かなりなまっている)
全員「…!(こ、これは!)」
ジェシカ「まさか!」
ソヨン「シカよりも上手い。そ、そんなはずは…」
ユナ「なんや、アカペラなのに…いやアカペラやこそ、心の中に染みこんでくる」
ヒョヨン「ウチのダンスに匹敵するレベルやで」
ソヒョン「ゼントラーディ軍に対するリン・ミンメイ並みの破壊力や」
スマン「(それでええ、キム・テヨン。自分がこのガキどもを率いて、いずれ世界の歌謡界に風穴を開けるんや。
  ワシのプロデュース力が確かなら、今日が新しい時代の第一歩として歴史に記されることになるで)」
ジェシカ「(ワナワナ)くぅぅ…キム・テヨン…忘れへんで。今日かかされた恥、いずれ100倍にして返してくれるわ!」






※デビュー前のテヨンについて、いろいろ書かれている事を綜合すると、
 小学5年の時にテレビ等で活躍するBoAに影響され歌手を志す(もともと歌が好きで上手だったようである)。
 PC等を使って独学していたが、中学2年の時に親を説き伏せソウルの養成所に通い始める(おそらくSM傘下のスターライトアカデミーかと思われる)。
 以後1年以上、毎日曜に父と車でソウルに通う生活となる。全州-ソウル間は車で片道3時間以上かかる。
 車内で父と語るのがとても大切な時間だったと、テヨンは後に語っている。
 中学3年のときボーカルトレーナーだった歌手THE ONE (チョン・スンウォン)の2集アルバムに参加する。
 その結果ライブで歌うにはまだまだ練習が必要だと悟る。
 この頃にはただBoAを目指すのではなく、ライブで聴衆を魅了する歌手になりたいという具体的な夢があったようだ。
 同年第8回SM青少年ベスト選抜大会で歌部門1位(ノレチャン)を獲得、綜合でも優勝して(チョングベ大賞)SMと契約。以後練習生となる。
 この時点でジェシカ、ユナ、ユリ、ソヒョン、ヒョヨンなどはすでに練習生としてSMで学んでいた。
 ちなみに練習生になると、トレーニング費用は免除されるが、テヨンは実家が遠いためこの後寮生活となる。


※『帰去来辞』…中国の詩人・陶淵明(365年〜427年)の漢詩”帰去来辞”を元に作られた韓国の歌謡曲
 スタンダードらしく、何人かの歌手が歌っている。
 「帰去来辞」は陶淵明が41歳の時、全ての官職を辞して故郷に帰り、、田園に生きる決意を歌った詩で、
 日本では「帰りなんいざ」と言う菅原道真による訓読で知られている。
     カン・ジミンによる『帰去来辞』