第79話 KARA、トリオになる

こんこん、こんこん
ソヒョン「おんや? 誰か来たで」
ジェシカ「新入りが挨拶に来たんちゃうか?」
ソニ「ウチら自身がど新人やってのに、誰が挨拶に来るゆうんじゃ、ボケ」
ジェシカ「しゃーけど、こないだJOOとかゆうチンチクリンが来たやないか」
ユリ「あれは珍しい事件やった。ま、例外やろ」
こんこん、こんこん
ヒョヨン「お、また叩いてる。早く出た方がええんとちゃう?」
ソヒョン「しゃあないなぁ。そやけど、これが新聞の勧誘やヤクルトのおばはんやったら即閉めるで」
ソニ「新聞やヤクルトが局の楽屋まで来るかいな」
ユナ「てかさー、このブログ、ウチらの楽屋に誰ぞ訪ねて来るゆうシチュエーションが多ない?」
スヨン「そーかな?」
ソニ「たぶん形而上の存在のお方が新たなシチュエーションを考えるのが面倒なんやろう」
ティパニ「つまり作者の手抜きってことやな」
ソニ「しーっ、そんなこと直接ゆうたらあかん」
こんこん、こんこんこんこんこんこ!  
ユナ「あ、怒ってはる」
ソヒョン「仕方ない、出よう…はーい、どなた?」
がちゃ
ギュリ「(ぬっ)待たせ過ぎじゃ、ドアホ」
スンヨン「ホンマやで。先輩がわざわざ訪ねて来てやったゆうのに」
ニコル「まったく。アジア人はノック知らないんかと思うたーヨ」
テヨン「そおゆう貴様らはいったい誰や?」
ギュリ「(かくん)認知症か! こないだMnetで一緒やったやないか。KARAやKARA」
テヨン「中国の王朝の?」
ギュリ「それは“唐”(うきーっ)」
ソヒョン「ほな東京オリンピックで普及したとゆう…」
ギュリ「KARAーテレビでもないわっ。強引な上に半世紀も前のネタやないけ(怒)」
スンヨン「まぁまぁ、こんな奴らやっちゅうことくらい判ってたやないか。いちいち怒ってたら血圧上がるで」
ギュリ「そ、そやったな。とにかく、ウチらは自分らのライバルグループKARAや。思い出したか」
ソニ「ライバルとはこれっぽっちも思うてないけど、うっすら思い出したわ」
ヒョヨン「KARAゆうたら同期やないか。なんで先輩風吹かすねん? ウチらの10分の1も売れてへんくせに」
スンヨン「年齢的に先輩ゆうとるんじゃ。年上をリスペクトせい!」
ジェシカ「そんな小学生みたいな顔で年上ゆわれてもなぁ」
スンヨン「(むか)き、気にしてることを」
ニコル「でもでも、目を凝らしたら全身にワサワサと子どもにはないものが見えるヨ」
ソヒョン「あ、ホンマや」
ユリ「確かに、こんな毛深い子どもはおるまい」
スンヨン「うう、もっと気にしとることをズケズケと」
ギュリ「まぁ言い出したのはニコルやけどな」
スンヨン「とにかく、これで先輩やと認めた訳やな」
テヨン「いやまだ判らんど。イエティの子どもならこれくらい毛深いかもしれん。自分、イエティか?」
スンヨン「(うきーっ)UMAがのこのこ都会に出て来てアイドル目指すか、ボケ! ゴリラがプロ野球選手になる以上に無茶なことやないか」
ソニ「む、ゴリラがプロ野球選手になるとは面白い。いずれ映画の企画として中国に売り込んでみよう」
スンヨン「どーでもええ話ばっかりするな」
ニコル「いつまでたっても本題に入れないヨ」
ユナ「お、自分はうちとこのマンネより年下やろ? ほんならちゃんとウチらをリスペクトして、敬語を使えや」
ジェシカ「そーだそーだ。貢物のひとつでも持って来い」
ニコル「そっちの10分の1も売れてへんから貢物は無理やけど、敬語ならちゃんと使うてるだーヨ」
ヒョヨン「どこがやねん」
ニコル「文章の最後にちゃんと“ヨ”つけてるーヨ。韓国では最後に“ヨ”つければ敬語になるて聞いたヨ」
スヨン「(カクン)『シンデレラのお姉さん』かっ!」
ソニ「未来の話をするなって」
テヨン「いつまでも脱線してばかりおらんと、いったい何の用や? こっちは本番前で忙しいんやで」
ギュリ「脱線しとるんはそっちやろーが!(うきゃー)」
ニコル「どうどう」
スンヨン「実は…ウチらを見てなんか気づかんか?」
ジェシカ「なんか…? そおゆうたら貧乏くさいかな?」
ギュリ「こないだ妹の給食費貸してくれゆうて泣きついてきたのは誰や!(ぎゃおーす!) よお他人のこと貧乏くさいとかゆえたもんやな」
ジェシカ「ぴーぴー」
ソヒョン「おや? KARAて3人組やった?」
スンヨン「さすが少女時代いち冷静な娘。よお気づいたな(ふふふ)」
ソニ「3人組やないとすると何人組やねん?」
ソヒョン「確か8人組やったような」
ギュリ「じぇんじぇん冷静やないやないかっ」
テヨン「まぁまぁ、落ち着け。ウチらの中にKARAなんぞに興味あるモンがひとりもおらんだけのことやがな」
スンヨン「ええ加減にせぇ。終いにゃ暴れるど」
テヨン「む、イエティに暴れられたらかなわん。ここは話を聞くとしよう」
ギュリ「まったく、用件いっこ伝えるのも時間食うてかなわんわ。とにかく、話ちゅうのはウチらのメンボ構成のことや。実は、今日来てへんキム・ソンヒやが、彼女が脱退することになったんや」
テヨン「なんやてぇ?!(がーん)」
ニコル「わ、えらい驚いてるーヨ」
テヨン「てことは、KARAは今まで4人組やったんかい?!」
ギュリ「(ずるっ)そこかよ!」
スンヨン「マジで話が進まんやないかっ!(どったんばったん)」
ユナ「わ、イエティが暴れだした!」
ヒョヨン「あかん、隣の楽屋はイ・ジョンヒョンねえさんや。あの人に怒られたらマジ殺されるから静かにさせれ」
ニコル「ほれ、まい泉のかつサンドあげるから落ち着くだーヨ」
スンヨン「がうがう(パクパク)」
ジェシカ「あ、静かになった」
ティパニ「なんや、スヨンとあまり変わらない飼い方やな(笑)」
スヨン「飼うとかゆうな」
ソニ「そんで、なんでソンヒが辞めることになったんでっか?」
ギュリ「公式には学業に専念するためゆうことにしてあるけど、実は親バレが原因やねん」
ユナ「はぁ? 今まで親にゆうてなかったん?」
ギュリ「そやねん。ある日父親の同僚が借りて来たビデオにソンヒが映っておって、大騒ぎになったらしい。で、親族会議の結果、即刻引退を勧告されたゆう訳や」
ティパニ「なんかAV嬢の顛末みたいやなぁ」
スンヨン「AV嬢ゆうな。せめて仲村みうくらいにしとけ」
ティパニ「大して変わらんがな(呆)」
ギュリ「とにかくそんな訳で、当面活動を休止するんで、その報告に来たっちゅう訳や」
テヨン「それだけゆうのに、えらい時間かけたもんやな(嗤)」
スンヨン「貴様らがちゃんと話を聞かんからやないかっ(がおー)」
スヨン「そんで、しばらく休んでどおすんの? 今後は3人組でやっていくんかい?」
ニコル「まぁそれも考えたけど」
ソヒョン「判った。誰が三味線で、誰がギターを弾くかで揉めたんやな」
ギュリ「は?」
ユリ「そら三味線は一番年上て決まってるがな。そんでもってセンターポジションや」
ティパニ「ほなギュリが歌江ねえさん役か」
テヨン「で、イエティが照江で、ニコリンが花江やな」
スンヨン「かしまし娘かっ!」
ギュリ「漫才なんかせんわ、ボケッ!」
ソヒョン「やればええのに。どうせアイドルとしてはお先真っ暗なんやから」
スンヨン「やかましーわ。今後のメンボ次第で、活路が開けるかもしれんがな」
ソニ「他力本願かよ(とほほ)」
ジェシカ「ん? てことは、追加メンボを募って活動を続けるつもりかいな?」
ニコル「そうだーヨ。そんでメンバーが決まるまでの間活動は休止ってことだーヨ」
ユリ「なるほど、やっと話が見えた」
テヨン「それだけゆうのに、えらい時間かけたもんやな(嗤)」
スンヨン「ええ加減にせえ!」
ソヒョン「そやけど、メンバー次第じゃさらにツクツクなグループになり果てる可能性もあるな」
ギュリ「やなことゆうなよ」
ヒョヨン「よし、ここはひとつウチが得意の占いで新しいメンボを視てしんぜよう」
ニコル「そんな特技あったん?」
ヒョヨン「うむ。行きつけの占い師のおばはん見てたら、なんとなく覚えてな」
ソヒョン「占術って、そんな門前の小僧システムで覚えられるものなん?」
ヒョヨン「そおゆうてもなかなかの的中率なんやで。こないだもケネディの暗殺予言したし」
ソニ「いつの話だよ」
ヒョヨン「(じゃらじゃらじゃら…ちーん)出ました! 新メンボの顔が見えますぞ…うむうむ…なるほど」
ギュリ「何がなるほどなん? どおゆうメンボか教えてーな」
ヒョヨン「そうやな、自分らの新しいメンボはふたりのよおじゃ」
スンヨン「ふたり? ほなウチらは5人組になるってことか?」
ヒョヨン「数年間は5人組のままやが、結成25周年目に解散すると出ておる」
ニコル「25年? KARAってそんなに持続するの? 大人気グループだーヨ」
ヒョヨン「む…今のは別のグループと間違うたかもしれん」
ニコル「なんだよ(こけ)」
ヒョヨン「とにかく新メンボのうちひとりは、イナゴの相が出ておるな」
ギュリ「イナゴの相?」
ヒョヨン「左様。その女はイナゴの生まれ変わりか、ショッカーに改造されてイナゴ体質になったか、あるいはイナゴを食べるのが大好きか、そのうちのどれかやろうな」
ギュリ「どれもぞっとせんけど、現実的な可能性として3番目やないか?」
スンヨン「つまり光州出身の女か」
ギュリ「違いない」
ユナ「よおそんなめちゃくちゃな占いで、そこまで導き出せるな(呆)」
ギュリ「こっちは他人事じゃないんだよ」
スンヨン「真剣に推理すれば、これくらいの謎解き、どーってことはないわ」
ニコル「ほんで? もひとりのメンバーは?」
ヒョヨン「そやな、でかい段ボールが見える」
スンヨン「でかい段ボール?」
ヒョヨン「布団くらいでかい段ボールや。それにくるまって生活しとるホームレスか、壁のような段ボールを仕事道具に使っている“もう中学生”か、どちらかの姿が見える」
ギュリ「ホームレスにしろ“もう中”にしろ、共通点は中学生…つまり現在中学生のアイドル候補ってことやな」
ユナ「ぴゃー、女鹿刑事も驚きの推理力」
ヒョヨン「どうやらそのようやな。そのふたりを加えた5人で“ろっきゅーばっせ”とかくだらない歌を歌いながら、ピョンピョン跳ねている姿が見えるで」
ニコル「えー? そんなガキっぽいのいややなぁ」
ヒョヨン「ニコリンなんか、“キャオ”といかゆって跳ねることになるで」
ニコル「わー、勘弁勘弁」
スンヨン「そ、それで、ウチらは人気出るんかい?」
ヒョヨン「人気ね…(むにゃむにゃ)出ました! この国では相変わらずパッとせんけど、海の向こうで大人気になるらしい」
ギュリ「海の向こう?」
ニコル「おー、ウチの故郷アメリカだーヨ。間違いない」
スンヨン「ほーか。つまり5人組になってアメリカで大人気、グラミー賞を受賞、とそおゆう占いの結果やな?」
ヒョヨン「アメリカとはゆーてないし、グラミー賞なんかさっぱり見えてへんけど、そお思い込みたいならどーぞ」
ギュリ「間違いなかろう。気は進まんかったが、この楽屋に挨拶に来てよかった」
スンヨン「うむ、未来は明るいようや」
ニコル「塞いでた気持ちが急に楽になっただーヨ。ほんじゃ、また体制が整ったら挨拶に来るだーヨ」
ギュリ「そやな。新曲での活動、人気出るように応援してるで。ほんじゃまた」
スンヨン「ばいばいきーん!」
ばたん
ソニ「現金な奴らやな。急にニコニコして帰って行ったで」
ユリ「あいつらに応援されんでも新曲はとっくに1位やっての」
ソヒョン「それにしても、おねえの占い能力すごいやん。あんなにはっきり未来が視えるもんなん?」
ヒョヨン「視えるはずないやんか。ちゃんと修業した訳でもないのに」
ソヒョン「あら(こけっ)。ほな今の占いは…」
ヒョヨン「全部口から出まかせや」
ジェシカ「(ぴゃー)マジで?」
ヒョヨン「うん」
ユナ「てことはKARAの新メンボの内ひとりが光州出身で、もひとりが中学生ゆう…」
ヒョヨン「はずがない(笑)」
ティパニ「海の向こうで大人気ゆうのも?」
ヒョヨン「うそぴょーん。ま、ひょっとしたら土人になら受けるかもしれんけどな(がっはっは)」
ソニ「土人とかゆうな。掲載禁止になるやないか」
ナレーション「しかし、実際にその数か月後、ショッカー出身の運動神経抜群の少女と中学生の少女が加入し、ヒョヨンのインチキ占いは的中した。 
 さらに、海の向こうの日本人が土人並みの感性だったことはこの時の彼女らには知る由もなかったのである」






鳴り物入りで登場した少女時代ですら、デビュー当時の状況をご存じのファンは多くないようだ(日本では)。いわんやまったく注目されなかったKARAにおいてをやである。
 実を言うと作者もKARAの当時のことはよく知らない。興味なかったし、今と比べてその頃の女子K-Popアイドルの情報はとても少なかったのである。
 とにかく、本文にもある通り、KARAはデビュー当時ギュリ、スンヨン、ソンヒ、ニコルの4人組だった。
 当時のパフォーマンスはこんな感じ。


    


 この頃はBoAが大人気で、アイドル候補生の多くがBoAに憧れており、そのせいかなんとなく雰囲気がBoAっぽい。これは少女時代もそうで、当時のごく自然な方向性だったと思うが、そこに一石を投じたのがWonder Girlsの『Tell Me』である。
 制服を着て女子学生であることを強くアピールするやり方が大受けしたため、少女時代も2曲目からプリティ路線に変更、ソンヒの脱退などでゴタゴタしていたKARAも遅ればせながら『Rock U』でイメージチェンジした。
 この女子学生コンセプトは今にいたるもガールズグループの主流となっている。


     『Rock U』2008年7月
 

 今見ると大変可愛らしいが、当時の作者はあまりの幼稚さとヘタさに(特にハラグー)「こりゃあかんわ」と思ったものだった。
 ただし当時の2ちゃん少女時代スレッドには、一見即KARAペンに転んだ奴らも多くいたから、日本人に適性があったのは間違いない。


 作者がKARAと言う存在を意識したのはティファニーがMCをやっていた『少年少女歌謡白書』を降板したため、スンヨンが後任MCに抜擢された時(2008年6月30日)。作者が「げ、パニやんよりずっと可愛ええやん」と思って調べたら、それがKARAのスンヨンであった。当時「そおゆうたらKARAちゅうグループもおったような」とぼんやり記憶していたことを憶えている。


     『少年少女歌謡白書』でのハン・スンヨン


 この直後に前述の『Rock U』が出る訳だが、これも前述の理由で、それ以上興味を抱くことはなかった。
 この頃の少女時代はテヨンの熱愛報道や沈黙事件などファンの心理を揺さぶるようなニュースが多く、純正ソシペンとしてはとてもKARAどころではなかったし。
 次にKARAを強く意識するのは『青春不敗』(2009年10月〜)でのハラグーの活躍によるものであった。


※「未来の話をするなって」…“ヨ”をつけるつけないのやり取りはムン・グニョンチョン・ジョンミョンによる名場面だが、いかんせん『シンデレラのお姉さん』は2010年放映なので、フライングなのだった(この話は2008年2月)。

第78話 テンDJ

ソヒョン「おねえの親友ってダレ?」
テヨン「権力と名声(きっぱり)」
ソニ「ほなチームメイトは?」
テヨン「金魚の糞(すっぱり)」
ヒョヨン「うーむ。判ってはいたが、こうまで迷いなくゆえるとは、おとろしい奴(呆)」
テヨン「くだらんこと訊いてへんと、ちょっと衣装確認してや。これ、どお思う?(くるりん)」
ユナ「可愛いドレスやん。あちこちに白いフリフリがついてて」
ジェシカ「え、デートなん?」
ティパニ「ちゃうがな。仕事や。例の『チンチンラジオ』に、今日が初出勤やて」
ジェシカ「あー、ラジオか…てことは相手はあのカンインかいな」
スヨン「あのカンインやけど」
ジェシカ「ほな、おめかししたところで無駄や無駄。裸で行ってちょうどええくらいやから、せめて部屋着でも着てれば充分なんやないの?」
スヨン「投げやりやなぁ」
テヨン「別にカンインのために着てる訳やない。ラジオのDJはウチの子どもの頃からの夢。その夢が叶った初日を、ええ加減な服装で迎えたくないだけや」
ティパニ「仕事にだけは真摯なんだよなぁ。それ以外は最低のクズ野郎やけど(どげしっ)うわーっ!」
ソニ「蹴られるて判っててゆうんやから(呆)
  そやけど、初出勤にそんなヒレヒレした格好で行ってええもんやろうか?」
テヨン「え、あかんか?」
ソヒョン「アイドルやからええん違うの?」
ソニ「アイドル風のラジオになるならええけど、どおも違うものになりそうな気がする」
ヒョヨン「ちょっと予行練習しておくか」
テヨン「DJの? ええで」
ヒョヨン「ほな…ピ・ピ・ピ・ポーン!」
スヨン「キューッ!」
テヨン「はーい、こんばんは! 『カンイン・テヨンのチンチンラジオ』Go、Go、Go! もひとつおまけにGo!
  夜更けの音楽ファン、こんばんは。朝方近くの音楽ファン、おはようございます」
少女時代「(ずっこけ)ふ、ふるぅ」
ジェシカ「まさかの糸井五郎風…」
ソヒョン「うーむ。田舎育ちとは思うとったが、ここまで時代感覚にズレがあるとは」
テヨン「失礼やな。最先端のデスクジョッキーやで」
ソニ「デスクジョッキーゆうな」
ティパニ「他の喋り方は出来へんの?」
テヨン「もちろん出来る。ウチをなめんなよ」
スヨン「じゃあ、それで頼むわ。キューッ!」
テヨン「今週はー1週間に渡ってー“おとうさん”について考えるのココロ」
ヒョヨン「げっ、小沢昭一や」
ユナ「ますます古いやないけ」
テヨン「口演:キム・テヨン、筋書き:津瀬宏、お囃子:山本直純…」
ソニ「もおええ! やめれ」
テヨン「まだ提供を読んでないけど」
ヒョヨン「やかましい!」
ソニ「やはり、こういう昭和なDJしか出来んか。ならばヒレヒレのドレス着ていっても違和感がある」
ユリ「もうちょっと堅く行った方が無難かも」
テヨン「そおかなぁ」
ジェシカ「ほな、このパンツスーツはどおや? チョコレート色でシックやし」
テヨン「えー、リクルートスーツみたいやないの」
ジェシカ「初出勤なんやから、これくらいでええって」
ティパニ「まぁどうせ堅い喋りになるんやし、似合うてるかもしれんな」
テヨン「そおかなぁ(ぶつぶつ)」
スヨン「お、もおこんな時間やで」
テヨン「わ、ホンマや。ほな行って来まーす」
ソニ「頑張って来いよー」
バタン


ソヒョン「ぼちぼち8時違うか?」
ソニ「うむ、もお始める頃やな。初回やし、ちょっと聴いたろ(ぱちり)」
ティパニ「おーい、テングとカンインのラジオが始まるでー」
少女時代「ひゃー、いよいよやなぁ」
わらわらわら
ラジオ『ピ・ピ・ポ−ン…』
ユリ「始まった!」


    


テヨン『浮き雲に心を寄せ、大空に羽ばたく鳥を思えば、軽やかな時が流れてゆく…』
ジェシカ「わ、めっちゃ堅〜い」
スヨン「なんじゃ、このナレーション?」
テヨン『…ジェットストリーム!』
少女時代「(ごろごろごろーん)チンチンラジオ違うヤン!」
ジェシカ「あくまでも昭和な奴(天晴れ)」


ムジ鳥「一週間後ーーー!」
ユナ「なぁなぁ、さっきテヨンねえ、下の屋台にトッポギかおでん買いに行くよおなカッコで出て行ったけど」
ティパニ「ほなトッポギなりおでんなり買いに行ったん違うの?」
ユナ「いや、それがなかなか帰って来んし、考えてみたら今日もラジオあるし」
ソヒョン「ウチにはMBC行くゆうて出て行ったで」
ユナ「ええーっ? あんな格好で?」
ティパニ「どんな格好やったん?」
ユナ「そやから下の屋台に行くような、スカートの下からパジャマのズボン穿いてサンダル突っかけて」
スヨン「そんなコーディネートでラジオ局行ったん?(しえー)」
ヒョヨン「めかし込んで出てた先週と大違いやなぁ」
ソニ「どおなってんやろ? ラジオ聞いてみるか」
ぽちん
カンイン『ホイットニー・ヒューストンで“I Will Always Love You”を聞いていただきました』
ソニ「おー、もお始まっとる」
テヨン『黒人にしては美人のねーちゃんやね』
カンイン『そーゆーことゆうなよ』
テヨン『なんでや。これでも誉めてるんやで(ほじほじ)』
カンイン『ハナクソほじるな』
テヨン『ラジオやからええねん。自分が黙っとったら誰にも判らんがな(ほじほじ)』
カンイン『今日は見えるラジオや。全部見られとる』
テヨン『ふん(ぷっ)』
カンイン『カメラのレンズにチューインガムを吐くな』
テヨン『目隠し目隠し(笑)』
カンイン『目隠しすんな。視聴者が見れんで困るやろ』
テヨン『(ぷっ)』
カンイン『だからやめろって』
テヨン『今のはオナラや…うひゃひゃひゃ』
カンイン『わ、ニラくさ〜』
少女時代「…(最悪や)」
ソニ「な、なんでこおなった?(汗)」
ティパニ「知らんけど、堅い堅い昭和のDJよりええん違う?」
ユナ「よくはないやろ」
スヨン「そやけど、えらい早う馴染んだなぁ」
ソヒョン「まぁ、どっちかゆうたら、こっちの方が自然体やからね」
ソニ「これから毎晩、少女時代の恥をさらし続けるのかぁ(とほほ)」


ナレーション:サニーの心配通り、今後テヨンはこの番組を通じて、様々な失言を繰り返していくのであった。





※カンイン・テヨンの親しい友人(チンチンラジオ)…2008年4月8日から始まったMBSFM4Uのラジオ番組。土日関係なく週7日午後8時〜10時までの基本生放送。
 カンインはその1年前から『カンイン、チョ・ジョンニンの親しい友人(チンチンラジオ)』と言うタイトルで、プロのラジオパーソナリティであるチョ・ジョンニンと同番組を進行していたが、チョ・ジョンニンの降板を受けて、相方がテヨンに代わり、タイトルも合わせて変更になった。※ビギンズ第72話参照
 ラジオのDJをやるのはテヨンの小中学時代からの夢であり、初めての個人活動と言うこともあり(CF除く)、初日はかなり張り切っていたようだ。
 第1回目の放送後カンインとともにテレビのインタビューを受けているが(動画はもう見つからない)、本編にある通り、チョコレート色のパンツスーツに革の靴というお堅い衣装で臨んでいる。
 一方カンインは、取材があると知っていたのも関わらず、よれよれのパーカーにジャージのズボン、ビーサン履きと、容姿優秀でSMに入ったとは思えない服装だった。
 しかもテヨンに対し「お前も2〜3週間たったらこうなるよ」と告げている。ラジオだから気楽にやれ、でないと続かないぞ、と言う意味だろう。そう思いたい。
 ただし『チンチンラジオ』は“見えるラジオ”(スタジオの様子を生で配信するネットテレビ)が多く、さすがにテヨンの衣装がよれよれになることはなかったが、普段ハイヒールで痛めつけられている足元だけはお気に入りのサンダルに履き替えていた。

第77話 祭りばやしが聞こえる

♪ぴんぽーん
アナウンス「みなさま、ようこそスピードーム(光明ドーム競輪場)へ。
  本日は本場開催、MBSコーヒープリンス1号店大ヒット記念、【F1】イケメンバリスタ争奪戦最終日となっております。
  また日曜日と言うことで、今売り出し中のアイドルグループ少女時代が来場、第3発売所特設ステージにて華やかな歌謡ショーをご覧いただきまーす!」


日本人「なぬ、少女時代とな?」
競輪ファン「え、にいさん、少女時代知ってはるの?」
日本人「知ってまんがな。ワシぁデビューしたばっかりの頃からペンですねん」
競輪ファン「ほえー、ただの若造やないと見た。失礼ですが、アイドル評論家かなにかでっか?」
日本人「いんや、たまたま隣に座ったギャンブル狂ですわ。まぁ、みんなとひとつだけ違うてるとすれば、日本人ゆうとこでしょうかね」
競輪ファン「日本人? にいちゃん、日本人やったん?」
日本人「そない大きな声でゆわんでも」
競輪ファン「なんで日本人が競輪なんか?」
日本人「いやー、韓国来たついでに、こっちゃの競輪も経験してみたい思うて。一緒に来た家族は今頃DMZツアーに行ってますわ(ははは)」
競輪ファン「偉い! にいちゃん、ギャンブラーの鑑や!」
日本人「いやー、それほどでも(ぽりぽり)。けど、わざわざ光明まで来たお陰で、少女時代まで見物出来て最高ですわ」
競輪ファン「少女時代かぁ、あれはええ。若くて綺麗で生命感があふれとる」
日本人「ホンマ、ピチピチしてまんなぁ」
競輪ファン「ワシ、スヨンたんが一番思うんやけど、自分、誰のペンやねん?」
日本人「ワ、ワシはユ…いや、テ…いや、その、みんな好きですわ」
競輪ファン「優柔不断やなぁ。車券も仰山買うタイプやろ?」
日本人「もお全流しばっかりで(笑)」
競輪ファン「判るけどー(がっはっは)」
日本人「そやけど少女時代はラインが複雑で、ひとりに絞りにくいんですわ」
競輪ファン「そお? にいちゃんが見たところ、どんなラインになる思う?」
日本人「そうですねぇ。車番を①テヨン ②ジェシカ ③ティパニ ④ソニ ⑤ヒョヨン ⑥ユリ ⑦スヨン ⑧ユナ ⑨ソヒョンとするとですね」
競輪ファン「お、誕生順、判りやすい」
日本人「一般にはボーカルラインに①テヨン、②ジェシカ、③ティパニ、⑨ソヒョン
  ダンスラインが⑤ヒョヨン、⑥ユリ、⑧ユナ に場合によっては⑦スヨンが加わる二分戦と思われがちですが」
競輪ファン「それは『タマンセ Rimix.ver』を見ても明らかやない?」
  


Into the new world(remix)@M Cowntdown_20070927


競輪ファン「並びは
  ソヒョン ③ティパニ ①テヨン ②ジェシ
  ユリ ⑤ヒョヨン ⑧ユナ スヨンユリ ⑤ヒョヨン ⑧ユナ ⑦スヨン やろ」
日本人「でも②ジェシカはダンスも上手いですよね。するとダンスラインに加わって
  ソヒョン ③ティパニ ①テヨン
  ユリ ⑤ヒョヨン ②ジェシカ ってこともあり得ます」
競輪ファン「なるほど、先輩の②ジェシカが3番手を奪って⑧ユナをはじき出す形か」
日本人「そうすると残った者で
  ソニ ⑦スヨン ⑧ユナ となって三分戦になるでしょう?」
競輪ファン「うーむ。二分戦なら①-②-⑤思うたけど、こうなると⑤-②-①あるいは②-⑤-①も」
日本人「そっちがごちゃごちゃしてるスキに⑧-④が突き抜けちゃうかも」
競輪ファン「一気に難しくなるなぁ(むむむ)」
日本人「それだけやありまへん、②ジェシカと③ティパニが④ソニを巻き込んでラインを形成する可能性も」
競輪ファン「えー? なにそれ?」
日本人「美国ラインですわ」
競輪ファン「あー、そのスジ忘れとったわ。すると
  ソヒョン ①テヨン ⑦スヨンユリ ⑤ヒョヨン ⑧ユナソニ ②ジェシカ ③ティパニ
  キレイに3ライン形成やな」
日本人「この形ならどれが来てもおかしくありませんからね」
競輪ファン「ホンマー。うわー、少女時代難しなぁ。以前来たワンダーガールズやKARAはもっと単純やったのに」
日本人「さすが女性グループ最大の人数、伊達じゃありまへんな」
♪ぴんぽーん
アナウンス「お待たせ致しました〜。
  ただいまから第3発売所特設ステージにて少女時代が出走いたしまーす…(ごほん)失礼しました、歌謡ショーを開催しまーす」
日本人「わー、始まる〜。まだ狙い絞ってないのに」
競輪ファン「やっぱ全流しか(笑)」
掃除のおばちゃん「おっちゃんら、さっきから聞いとるけど、少女時代はレースせぇへんで」
競輪ファン「ち、やぼやな」
日本人「そんなこたぁ判ってるんやって。そやけど出走する体で予想立てて遊んでるんやないか。
  アジュンマには判らんかも知れんが、これが競輪ファンの知的遊戯ゆう奴や」
掃除のおばちゃん「おや、そおかい。そんならゆわして貰うけど、韓国の競輪は7車での出走やから。日本みたいに9車立てちゃいまっから」
日本人「あ…(がーん)」
掃除のおばちゃん「つまり、にいさんの予想は最初から不成立やったちゅう訳や」
日本人「ま、負けた(よろよろ)…日韓の壁に夢を拒まれた」
掃除のおばちゃん「けっ、そんな大層なもんかい、穀潰しが(呆)」

第76話 歌謡バカ一代

ドワン(THE ONE)「え? テヨンにソロ話が?」
スマン「そやねん。来年早々から『快刀ホン・ギルドン』ゆう時代劇がKBSで始まるんやが、その主題歌を歌う人間はおらんかてうっとこにオファーがあってな。
  まだあまり世間に知られていなくて、清純なイメージで、バラードを歌う実力がある女性歌手がええんやそうや」
ドワン「また贅沢な注文ですな」
スマン「ワシも最初そお思うて“何様やねん!”て突っ返そうかとしたんやけど、その時テヨンの存在が思い浮かんでな。
  グループの一員やから忘れがちやけど、よお考えたら、テヨンくらい注文にぴったりの娘はおらん」
ドワン「確かにバラードとなると、ジェシカよりテヨンですかねぇ」
スマン「チルヒョン(カンタ)と歌うた『7989』も良かったし、OSTくらいならソロで歌わせて、SMアイドルの歌唱力を世間に知らしめるにはええ機会やと思うてな」
ドワン「はぁ。で、どんな歌なんです?」
スマン「好きな男になかなか自分の気持ちを打ち明けられない、恋に臆病な乙女の心情を歌ったものや。テヨンにぴったりやろ?(ニヤリ)」
ドワン「戸田恵梨香の神崎直役くらいピッタリですね(溜息)」
スマン「そやろそやろ(うんうん)」
ドワン「…(こらあかん。皮肉が通じん)」
スマン「そやけど、ひとつ心配があるんや」
ドワン「心配?」
スマン「うむ。テヨンはスーパーガールズに組み込まれて以来、ここ2〜3年ソロで歌うたことがないやろ?」
ドワン「大丈夫やないすか? 稽古ではピンで歌うてますし、ラジオでも時々…」
スマン「師匠として、“勝算ある”ゆうんやな?」
ドワン「し、師匠としてゆうか、通りすがりのおじさんとしてなら、えーと」
スマン「(じー)」
ドワン「命賭けて“大丈夫です”とは、さすがにゆえまへんけど」
スマン「命賭けてもらわにゃあかんで」
ドワン「えー?」
スマン「師匠と弟子の関係は一生ものや。テヨンがソロとして羽ばたくビッグチャンスに、師匠が応援せんでどおする。
  自分、上手いこと指導して、ドラマを盛り上げまくりの上に曲だけ聴いても大感動、ゆう名曲に仕上げてやってくれ」
ドワン「ワシがですか?」
スマン「おうさ。“SMに発注したら、常に注文以上のクオリティで出来上がってくる、まさに歌謡界の『王様の仕立て屋』や、高見盛の愛読書や”ゆう評判を立てたいねん。
  自分かて外様トレーナーの意地を見せたいところやろ? 互いにとってこれはええチャンスや」
ドワン「そんなことゆうて、特別手当なしでワシにテヨンのトレーナー役を押しつけようとしてるだけでしょ」
スマン「ぴーぴー」
ドワン「…(むかつくわー。けど、テヨンは可愛い愛弟子。放っておく訳にもいかんな)」


テヨン「お久しぶりぶりちゃん(ぺこりん)。今回はよろしくお願いします」
ドワン「うむ。相変わらず人を舐めた態度やが、ええとしよう。譜面と仮歌のテープは受け取ったか?」
テヨン「へえ、先週に。もお完璧に憶えましたで」
ドワン「よし、ほなら早速いっぺん歌うてみよう」
♪ぽろろ〜ん ←ピアノ
ドワン「しーじゃっ」
テヨン「♪にゃんまげ 猫 噛んだミョン…
ドワン「ん?」
テヨン「♪猫 舌ば 噛んだミョン
ドワン「(ぐわーん)やめやめやめ! なんじゃそりゃ?」
テヨン「なんじゃて…先生の仮歌の通りやけど」
ドワン「ワシゃそんな風に歌うてないがな」
テヨン「歌うてますよ。だいだい先生みたいなダミ声で、こんな乙女の歌歌われたら耳がおかしゅうなりますがな」
ドワン「ワシのせえゆうんか?」
テヨン「そやけどウチはSM一歌が上手いテヨンちゃんでっせ。ウチのせいの訳がない」
ドワン「…こ、これはあかん(少女時代ゆう井戸の中で、いつのまにか蛙になっておった)」
テヨン「へたな仮歌のテープ渡しといて、“なんじゃそりゃ”はないでしょーが。
  だいたい先生はいつも“相手の心に届け”とか、指導が抽象的なんすよ」
ドワン「(かくなる上は、合宿で徹底的に鍛え直さにゃなるまい)」
テヨン「(ぶちぶち)こっちが知りたいのは、どおすりゃ相手の心に届くかゆう、いわゆるテクニックなんであって、それを精神論にすり替えられても…」
ドワン「山籠もりじゃーっ!」
テヨン「ええーっ!?(すてーん)」


ちゅんちゅん、ほーほー
くわーくわーっ
ドワン「ちゅうことで、智異(チリ)山へやってきたのであーる」
テヨン「鳥がうるさい」
ドワン「文句ゆうな、自分の故郷に近いよって、田舎なんはしょうがない。されどここは古来よりの山岳信仰の聖地。 
  ワシもデビュー前にここで山籠もりして、韓国の役小角(えんのおづぬ)と呼ばれたもんじゃ」
テヨン「宇宙皇子かっちゅうの」
ドワン「とにかく、山籠もりこそ現状を打破する最も効果的な修行。特訓の基本。
  かの空海高野山を駆け巡り、真言密教を開いたとゆう」
テヨン「そんで1200年後に九門鳳介にサイコダイブされた訳やな」
ドワン「いちいちマニアックなツッコミはいらん。ささ、せっかく修行僧の格好に着替えたんや、景気づけに瀧業からやってみるか」
テヨン「いやや! この冬に瀧業なんかやったら凍え死んでまうがな。そもそも景気づけてなんやねん?」
ドワン「絵柄的に派手な方が修行した気になるかなーと思うて」
テヨン「TVのリアルバラエティやないんやから絵面なんか気にせんでエエ」
ドワン「ほんならこの山の主とゆわれる樹齢1000年の大木と同化するまでひたすら瞑想するっちゅう地味な奴から始めるか?」
テヨン「う…うーむ」
ドワン「このまま雑念を抱いて瞑想したって、同化するまで1000年かかるで」
テヨン「そーですなぁ」
ドワン「とりあえず滝に打たれろや。それで覚悟も決まるやろ」
テヨン「とほほ、仕方ない」


どごごごごごーーーー
ざああああああ
テヨン「うひゃー、冷たい、寒い、痛い、死ぬ死ぬーーー!」
ドワン「こらー、文句ゆうとらんで真言を唱えるんやー。雑念を追い出せー!」
テヨン「がぼ、ごぼ、ごぼぼぼぼ」
ドワン「精神を集中して宇宙と一体となれ!」
テヨン「ぶくぶくぼごごご(無茶ゆうなって。息も出来へんがな)」
ドワン「ほな、滝の上から丸太を落とすで」
テヨン「(えっ?)」
ドワン「見事避けて、修行の成果を見せてみぃ!」
テヨン「ぶしゅしゅしゅ!(そんなん瀧業違うて)」
ドワン「いったでー!」
ごろんごろんごろん!
テヨン「わー、危ない!」
ドワン「避けきれんかったら、手刀で切り落とせ」
テヨン「『六三四の剣』かっ!」


テヨン「くてー(げんなり)」
ドワン「よし、飯を食ったら早めに寝ろ。明日も早朝から厳しい修行が待ってるで」
テヨン「寝ろって…先生と一緒にでっか? こんな若くて可愛い少女が、熊みたいな男と野宿するなんて…(ぶるっ)危険や、低層のキキや」
ドワン「貞操の危機な。貧民の魔女の宅急便やないから」
テヨン「とにかく、先生と野宿はあきまへんで。世間に知れたらスキャンダルに発展するし」
ドワン「安心せえ。野宿するのは自分だけや。ワシは麓のホテルに泊まるさかい」
テヨン「は?」
ドワン「修行するのは自分やし。ワシがそこまで付き合うことはないやろ。スマン先生から特別手当も貰うとらんのに」
テヨン「こ、このか弱い少女に、ひとりで野宿せろと? 野犬とか出て来たらどおする気でっか?」
ドワン「そん時や捕まえて食うたらええがな。自分、野犬好きやろ」
テヨン「まぁ、嫌いやないけど…って、そんな問題違いますやん」
ドワン「明け方は冷えるよって、暖かくして寝ろよ。ほんならまた明日」
テヨン「えー、ちょ、ちょっとー」
ドワン「バイバイキーン!」


ワオオオーーーン!
テヨン「わぁ、ホンマに野犬が遠吠えしとるぞ。勘弁してくれや、マジで」
がさがさ、がさがさ
テヨン「月夜やゆうても、森の中に射す光はか細いのぉ。足元見えんで、歩きにくうてしゃーないわ。
  えーと、先生が下りていったのは確かこっちやったな。てことは、この方角に人里があるはず…」
がさがさ、がさがさ
テヨン「いててて、棘刺した。懐中電灯持ってくりゃ良かったな」
ドワン「(ぬぅ)なんなら懐中電灯貸したろうかい?」
テヨン「お、こら、えろーすんまへん…って(どわー)せ、先生!」
ドワン「こらーーーーっ! ひょっとしたらと思うて、下り道で見張っとったら、ホンマに逃げ出して来よって。この根性なしが!」
テヨン「そやけど、ウチひとりで野宿なんて不公平やわ」
ドワン「自分の歌唱力が認められたからこそ、特訓しとるんやないか。
  それだけ会社の期待を背負うとると思えや。
  誰もヒョヨンにソロ歌わせたりはせんがな」
テヨン「ウチはもおプロや。特訓なんかせんでも、ちゃんと歌えますって。
  宿所でぬくぬく寝て、犬印ハンバーガー食いながらでも、ちゃんと人を感動させるバラード歌うて見せるから」
ドワン「いんや。すぐ逃げ出すなんざ、プロやない。泣いて田舎に逃げ帰った練習生時代から全然進歩しとらんわ。
  こうなったら容易に下りれんように切るしかないな」
ギラーン
テヨン「せ、先生それは!?」
ドワン「見ての通り山刀じゃ。土佐の匠・豊国の業物で、ぶっとい木の枝も一撃で断ち切る切れ味やで。試してみるか?」
テヨン「試すて、な、なにを?(汗)」
ドワン「もちろん、切れ味じゃい! たーっ!」
テヨン「ひぃー!」
ぞり
テヨン「………い、生きてる。…ぞり?」
ドワン「当分の間人里に下りたなくなるように、ひと剃りさせて貰うたで」
テヨン「えー? な、なにしたんでっか?」
ドワン「片方の眉を剃り落としたんじゃ」
テヨン「ぴゃー(ぶるぶる)。やめてやぁ、そうでなくても眉毛薄いの気にしとるんやから」
ドワン「片方だけお公家さんみたいになって、超ブサイクやでぇ(笑)。そんな顔になって他人に会えるかな?」
テヨン「会えるか、ボケ。これでもアイドルやで」
ドワン「片眉がイヤなら、もう一方も剃ってやろうか」
テヨン「あかーん。ウチに残された貴重な眉、これ以上いじらせへんで」
ドワン「ふっふっふ。そんなら元通りに生えそろうまで、この山できっちり修行して貰うのみや」
テヨン「チクショー。いつか新月の晩に後ろから金属バットで殴ってやるからな」


ドワン「さぁ、このろうそくの炎を前に、大きな声で歌ってみるのじゃ」
テヨン「歌えばええんですね? よーし。
  ♪にゃんまげ 猫 噛んだミョン…
ゆらゆら、ふぅっ…
ドワン「パボ者ー! 炎が消えたではないかっ!」
テヨン「そら、こんな近くで大声出したら消えもしますがな」
ドワン「そこを消えんように、いや揺らしもせんように歌うんじゃ。呼吸法の訓練なんじゃ」
テヨン「無理無理」
ドワン「無理やないっ。出来るまで朝飯食わせんど」
テヨン「えーっ?」


ドワン「次っ! この曲を息継ぎなしで最後まで歌うてみせろ(ばさっ) 肺活量の訓練じゃ」
テヨン「譜面? えーと『初音ミクの消失』とな?
  (ぺら)…いやいやいや、冗談きついわ。こんな曲は人間には無理だって」
ドワン「では人間を越えろ。出来るまで昼飯食わせんど」
テヨン「しえー」


     『初音ミクの消失



ドワン「次っ! 瓦割りの特訓じゃ」
テヨン「なんで歌の訓練に瓦割りなんか…」
ドワン「手で割るんやない、声で割るのじゃ」
テヨン「出たよ、無茶振り。こっちゃ超能力者じゃねーっての」
ドワン「声でワイングラス割る芸人かておるやないか」
テヨン「そらおるけども。ワイングラスと瓦じゃ厚みが」
ドワン「出来るまで晩飯食わせんど」
テヨン「虐待やーっ!(ひーん)」


ナレーション:こうして血反吐を吐くような修行が連日続いた。
  そしてある日…


テヨン「んーーーー、はっ!」
がちゃがちゃがちゃーん!
ドワン「おおっ! 声の力で15枚も重ねた瓦が見事に割れた!」
テヨン「はぁはぁ…どんなもんじゃい!」
ドワン「やれば出来るもんやなぁ(感心)」
テヨン「なんやと? 出来にゃ飯抜きゆうたんは本気やなかったんか!(がおー)」
のっしのっし
水牛「ぶもーっ!」
ドワン「わぁ、森の奥から水牛が!」
水牛「ぐもももー(連日うるさぁて子どもが引きつけおこすんじゃい)
  ぶひひひー(今日こそとっちめてやるからな)」
テヨン「な、なんか怒ってる」
水牛「ばもーーーっ!」
どどどどど
ドワン「わー、突進して来た! 逃げろーーー」
テヨン「い、いやじゃ! 牛ごときに一歩でも引いたら、キム・テヨンの名折れやけぇ。
  シャーーーーー、ムアディーブッ!」
どかーん!
水牛「ぶひーっ(くるくるどーん)」
ドワン「ぴゃー、声の力で水牛を吹っ飛ばしたど」
テヨン「見たか、これが修行の成果じゃい!」
ドワン「すげー。なんか判らんが、すげー」
テヨン「よーし、これで修行は終わりじゃ。眉も生え揃うたし、ついに下山してレコーディングする時が来たで」
ドワン「うーむ。さすがに認めざるをえんな。キム・テヨン、よお頑張ったで」


ドワン「てな訳で、恐るべき歌唱力を得て、下山して参りました」
スマン「ご苦労やった。テヨンの顔も見違える程野性味を帯びておるの」
テヨン「ふっふっふ、無敵やけえの」
クッキーマン「少女アイドルが野性味帯びてええのかなぁ?」
テヨン「このままMUTEKIに出演してもええで」
ドワン「黙っとけ」
スマン「では特訓の成果、このスマンの前でとくと披露するがよい」
レコーディングエンジニア「ほな録って行きまーす。イントロ、スタート!(ぴっ)」
♪ぽろん…
テヨン「♪にゃんまげ 猫 噛んだミョン…
スマン「こ、これは…!(汗)」
ドワン「いかかです?(にやり)」
スマン「すごいで。抑えた表現の中に、恋に不慣れな乙女の揺れる心情が熱く宿っておる」
ドワン「水牛をも倒す声を押さえ込んで、一見静かながらも爆発的な感情を秘めている…この感受性こそキム・テヨンだけの個性なのです!」
スマン「約束を守ったな、ドワン。…素晴らしい! 君たちプロミスや」 
ぶち
テヨン「♪値が張ると がっかり…あれ?」
レコーディングエンジニア「もっと真面目にやってよ。ほい、最初から」
スマン「なにがあかんのや? 今のテイク、めっちゃ良かったやないけ」
レコーディングエンジニア「いや、あかんでしょ。歌詞が全然違います」
スマン「(ずるっ)そこかい!」
テヨン「やっぱり仮歌が間違えてたんやないけ(怒)」
ドワン「す、すまん。山籠もりして反省するわ(土下座)」
スマン「チェ・ミンスかっ!」






※『もしも(マニャゲ)』…2008年1月2日よりKBSで放映されたフュージョン時代劇『快刀ホン・ギルドン』の挿入歌。
 テヨンは少女時代メンバーとしてははじめてソロで歌い、少女の切ない心情がよく表現されているとして大ヒットなった。
 3月17日のサイワールドミュージックアワードでは「今月の歌」に認定されている。
    
 ドラマの視聴率そのものも良かったが、この曲がかかると更に数%視聴率が上昇すると言われた。
 『もしも』はこの年のカラオケランキングでも上半期1位。下半期もずっと1位を続けていたが、最後になってイ・ウンミの『恋人がいます』に年間1位の座を持って行かれた(残念)。
 しかし、この年を代表する国民の愛唱歌であることは間違いない。
 テヨンはこの年ひきつづきMBCの『ベートーベン・ウィルス』の主題歌『聞こえますか?(トゥリナヨ)』を歌い、これも評判を呼んだ。
 これにより、テヨン=OSTの女王という構図が生まれたのである。


※おまけ…
     『空手バカ一代


     『恋人がいます』
    チンチンラジオでテヨンがカンインに無理矢理歌わせられた事件。

第75話 少女時代の一番長い日(後編)

07


ざっぱーーーーん!
ソニ「こ、ここ? 医者の館って?」
ユリ「そおみたい」
スヨン「岬ゆうても、周りは断崖絶壁やん」
ソヒョン「こんな所に住むのは犯罪者かマッドサイエンティストだけやで」
クッキーマン「もぐりの医者なんやから犯罪者なのは間違いないな」
テヨン「それに多少マッドサイエンティストの方がヒョヨンを組み立て直してくれそうでええかもな」
ヒョヨン「組み立てるとかゆうんやねえ、治すゆえや(怒)」
ギギギーッ
クッキーマン「お、扉が開いた」
幼女「よやくしてたしょうじょじらいたんわのよ〜?」
クッキーマン「そおですそおです」
幼女「れはかんじゃさんを中に入れゆです。こっちれす」
ジェシカ「うひー、お化け屋敷みたい。こんな所に住んでんのは、医者より吸血鬼なのでは?」
幼女「しつれいでちゅね。ちぇんちぇーはオープニングで”神のようなメス捌きで、奇跡を生み出す生命(いのち)の芸術家。 時代が望んだ天才外科医”と呼ばえていゆのですよ」
ソニ「オープニング?」
テヨン「そもそも神がメスを扱っている状況が想像出来んのやが」
幼女「うるちゃーい! へりくつこえゆな!」
がちゃ
無免許医「こら、ピ●コ、患者の前で騒々しいで」
幼女「アッチョンブリケー」
クッキーマン「あ、先生ですか?」
無免許医「BJと呼んで貰いましょう」
ユナ「なんで髪や顔が白黒のブチになってるんでっか?」
クッキーマン「こら、いきなり失礼な」
無免許医「構わんで。ワシはおとんが黒人でおかんが日本人やねん。ほんでブチで生まれて来たゆう訳や」
ユナ「ネコかよ(呆)」
無免許医「それより患者を見せてぇな…ははぁ、これはまた見事にパッキリいってるなぁ」
ヒョヨン「どうか、元通りに踊れるようにしてくだせぇ。踊りはウチの命ですねん」
無免許医「わかった。全力を尽くすと約束しよう」
クッキーマン「出来れば10分くらいで治りまへんか? 夕方から生番組がありますねん」
無免許医「はぁ? 折れた脊椎を繋ぐだけでも大手術やど。そのあと神経がちゃんとつながるかどうか。つながるにしても数年に渡るリハビリが必要やし」
ヒョヨン「そんなに?(がーん)」
クッキーマン「あかーん、今日の『ミューバン』はもお絶望や」
ユリ「まだ出る気でおったんかい(呆)」
無免許医「とにかくいろいろ診てみよう。判断はそれからや」


クッキーマン「………(いらいらいら)」
ジェシカ「診療てまだかかるんかなぁ」
ソニ「まだ10分もたってへんやないか。まだまだやろ」
ジェシカ「ほんならちょっと寝ようかなぁ」
ソヒョン「今なら誰も文句ゆわんと思うで」
スヨン「よお飯も食わんと眠れるなぁ」
がちゃ
クッキーマン「あ、先生。ヒョヨンは?」
無免許医「治ったで〜(ニコニコ)」
クッキーマン「は?」
無免許医「もうすっかり全快や」
ソニ「マジで?」
無免許医「あの娘は生命の奇跡やな。遺伝子の99%がクマムシと共通しとった」
ユナ「げぇー、ゆうてみれば人の形をしたクマムシてこと?」
無免許医「うむ。真空中やろうと放射能に晒されようと、めったなことで死にはせん」
テヨン「それはなんか納得出来るわ」
クッキーマン「ほんで、腰の方は?」
無免許医「調べて見たら身体の作りがLEGO®並に単純でなぁ。折れてた骨も凸凹がかっちりはまって元通り」
ユナ「ほな何か? ウチらLEGO®で出来たクマムシとチーム組んでたんか(呆)」
ティパニ「LEGO®はともかく、虫はきっしょいなぁ」
クッキーマン「この際、それを喜べや(きっと自分らも似たような作りやぞ)」
ソニ「神経もつながったんでっか?」
無免許医「神経やら、そんな高級なモンがあったかどうか。とにかく骨がはまったらちゃんと動くようになったで」
ユリ「そんな解決法でええのか?」
幼女「まぁあたちもちぇんちぇーにつくってもやった体え動いていゆかや、ふかく考えゆことはありまちぇんよ」
テヨン「そやな、そゆことにしておこう」
ソニ「納得すんのかよ(雑やなぁ)」
♪Tell me Tell me…(ぶーぶー)
ティパニ「む?」
ソニ「誰や、『Tell me』なんかを着信音にしてるアホは!」
クッキーマン「よぼせよ〜…」
少女時代「(がたた)マネージャーのくせに…」
電話の声「こらーっ、自分らどこでなにやってるんや!
  もうすぐリハーサルやのにスタジオ入りしてへん、何の連絡もないゆうて『ミューバン』のキム女史(PD)が怒りまくってるで!」
クッキーマン「あ、し、室長! すいまへん、移動車が事故を起こしましてヒョヨンが脊椎損傷の大怪我で…」


パク・ジュンヨン(SMエンターテインメント・プロデューシング・デパートメント室長)「なんやとー? 大ごとやないか」
クッキーマン(声)「そやから気が動転して連絡するのすっかり忘れてましてん」
パク・ジュンヨン「ううーむ。そおゆう事情なら仕方ない。そんでヒョヨンは? 生きてるんか?」
クッキーマン(声)「あ、もう治りました」
パク・ジュンヨン「(かくん)はぁ?」
クッキーマン(声)「ええ医者を紹介して貰いまして。ブロック玩具をつなぐようにあっさりと修理出来たんですわ」
ヒョヨン(声)「修理とかゆうな(ぷんすか)」
パク・ジュンヨン「お、聞こえた。元気そうやな。そんで、今どこや?」
クッキーマン(声)「それが、まだ江原道の海岸に」
パク・ジュンヨン「なぬー? そんじゃどんなに急いでもソウルまで2時間半…番組始まってまうど」
クッキーマン(声)「すんまへーん。今すぐ向かいますよって」
パク・ジュンヨン「…わかった。キム女史には事情を説明しておく。リハーサルは無理でも、番組開始までには何とか戻って来いや」
クッキーマン(声)「へーい。急ぎますわ」
ぷち
パク・ジュンヨン「とほほ。またキム女史に怒られるやないか。ヒョヨンのアホー」


クッキーマン「…てな訳で、全快の喜びもそこそこに出立しなければなりまへん。
  先生には大変お世話になりました」
無免許医「なんの。おもしろかったで。こんなヘンな患者は獅子面病以来や」
クッキーマン「それで、お礼の方は…(おずおず)」
無免許医「それじゃあ…特別賞をいただきましょう」
クッキーマン「は?」
無免許医「い、いや、なんでもない。忘れて貰おう」
幼女「また他人にわかやないぎゃぐでひとをけむにまいて…ちぇんちぇーのわゆいくせれすよ」
無免許医「す、すまん」
クッキーマン「なんや知りまへんが、お世話になりました」
無免許医「うむ、達者でな。1位になれるとええな」
少女時代「はーい、頑張りまーす!」
幼女「ちゃよららー」


ぶーっ
無免許医「行ってしまった…なんと気持ちのいい連中だろう」
幼女「そうかや〜?」


08


キンコンチンコン
クッキーマン「ああー、もうリハーサルが始まってる時間や。急げ急げ! ハイヨー、シルバー!」
ワゴンタクシーの運転手「もう限界ですって。速度警告音がキンコンゆうてるでしょうが」
テヨン「昔のトヨタ車かよ(呆)」
ユリ「♪時速120キロ ビルの谷間を抜けて 貸し切りだよハイウェー
  Go Go Go yayayaya…
ティパニ「なんや、その歌は(呆)」
テヨン「ビルなんかどこにも見えんぞ。クソ田舎の風景ばかりやんけ」
ユリ「気分や、気分。もうジタバタしたってなるようにしかならんのやから、陽気に行こうで」
ソニ「めでたい奴やな」
ジェシカ「とりあえずウチは寝る」
スヨン「腹減った」


ぶろろろ…トロトロトロ
クッキーマン「こら、スピード落とすな」
運転手「そおゆわれても、この先通行止めって標識が」
クッキーマン「なにーーーーっ?」
運転手「大雨で危険やそうですわ。仕方ない、次のインターで下りて山道を通りますか」
クッキーマン「ひー、ただでさえ間に合うかどうかわからんのに…」
テヨン「大雨やったら山道かて土砂崩れになってるかもしれんで」
運転手「その可能性はありますけど。ここで立ち往生してても仕方ないし」
テヨン「そやな。一発大勝負や」
クッキーマン「うひー、胃に穴が開きそうや(泣)」


ナレーション:一方そのころ汝矣島のKBSでは…
キムPD「なにー? 更に遅れるやと?」
AD「へえ。大雨で高速道路が不通やそうで。
  マネージャーが胃に穴開きそう、と泣いてました」
キムPD「パボいってんじゃねー。こっちゃ番組に穴開きそうなんだよ!」
AD「お、上手い(パチポチパチ)」
キムPD「仕方ない。少女時代の出番を後半に回しなさい。ある程度は待つよって」
AD「わっかりやした」
キムPD「くそー、少女時代め。迷惑ばっかりかけやがって、あいつら大っ嫌いや!(むかむか)」


キキキーッ
クッキーマン「今度はなにー?」
運転手「予想どおり土砂崩れですわ。ほら」
クッキーマン「わー、泥で道が塞がってる!」
運転手「見事に賭けに負けましたな、はっはっは」
クッキーマン「笑いごとか!(スパーン)
  ううう、やっぱり無理なんか? 地上波1位は夢のまた夢なんか?
  ワシが担当したアイドルが、初めて掴んだチャンスやったのに…(さめざめ)」
テヨン「アホか。泣いてる暇あったら身体動かせや」
クッキーマン「身体動かすて、なにする気ぃや?」
テヨン「道を塞いでる土砂の上を、みんなでクルマ担いで通り抜けるんや。
  こんだけの人数おったら、絶対行けるて」
クッキーマン「歩いて渡ろうっちゅうんか?」
ヒョヨン「無理や。ウチ、さっきまで腰折れてたんやで」
ジェシカ「ウチは眠いんやで」
スヨン「ウチは腹減ってるんやで」
テヨン「やかましい!(タコ殴り)」
ジェシカ/スヨンひでぶぶぶぶっ!」
テヨン「食うなら番組に間に合うてから食え! 寝るなら1位を取ってから寝れ!
  努力もせん奴に夢は訪れんのじゃ」
ユナ「ううっ、凄い迫力」
ティパニ「確かに努力は惜しまん奴やし、説得力あるなぁ」
ソニ「仕方ない、やってみるか」
テヨン「ほんじゃ高身長組と運転手はんは前を抱えて、短身組とクッキーマンは後ろや。
  行くでー、シージャック!」
全員「それー!」
ギ、ギギィ
クッキーマン「う、浮いたぁ」
テヨン「そーれ見ろ、やれば出来るんじゃい。よっしゃ、この勢いで土砂の向こう側までクルマを運ぶで」
全員「へーい」
ユナ「なんやらキャメルトロフィーみたいになってきたなぁ(とほほ)」


長身組「仁王!」
短身組「どっこい!」
長身組「仁王!」
短身組「どっこい!」
ナレーション:と、一向が力を合わせて汝矣島を目指している頃…
♪ジャーン
タブロ(司会)「儲かりまっかー!」
観客「ぼちぼちでんなー!」
タブロ「もっと大きく! 儲かりまっかー!」
観客「ぼちぼちでんなー!!」
タブロ「ええでっせー。
  さぁ、始まりました『ミュージックバンク』。今週も多彩なゲストをお迎えしております」
キム・ソンウン(司会)「その内少女時代のみなさんは現在営業先からKBSに向かっている途中と言うことで、到着次第歌っていただくことになっています」
タブロ「間に合うとええですね−。それでは最初の曲はこの方から…ジュエリーで『One More Time』!」
観客「キャーッ!」
キムPD「つ、ついに本番始まってしもうた。もお後戻りは出来へんぞ」
AD「今更欠席とは言えまへんもんね」
キムPD「少女時代の出番はきっちり開けてあるよって、間に合わなかったらマジで穴開くわよ…(きりきり)番組にも胃にもね」


東方神起(車内テレビ)「♪せさんぐる まんじるすが おったみょん
  なえげん ぼいじど あんぬんだみょん…」 ←『Purple Line (Dopamine)』
ソニ「ひえー、トンバンにいさんたちまで出番が回ったでぇ」
ユナ「やがて番組後半か」
クッキーマン「(きりきりきり)いててて」
運転手「あ、灯りが…ソウルの街が見えて来たで!」
クッキーマン「マ、マジか!(がばっ)」
ティパニ「残り30分で行ける?」
運転手「いや無理やろ。この先山ばかりだし、渋滞してるし」
テヨン「北村は? 韓屋村の中ならクルマ通ってへんやろ?」
運転手「あんなとこ車の通れる幅ちゃいまんがな。第一文化財でっせ」
テヨン「パボ野郎! ウチらの方がよっぽど文化的価値あるっちゅうねん」
ソニ「どうゆう理屈や」
テヨン「それに韓屋村なら全州にちゃんとした奴がある。こっちのはちょっとくらい壊しても大丈夫やって」
運転手「無茶ゆうなあ」
ブラウンアイドガールズ(車内テレビ)「♪やるっやるたん のる ひゃんはん なえまん
  とぅりに  I need you I love you
ユナ「わぁ、BEGねえさんたちが歌い出した」
クッキーマン「これああかん。迷うてる場合やないど。韓屋村やろうと宗廟やろうと突っ切れ!」
運転手「マジでぇ?」


キムPD「少女時代は?」
AD「もうすぐ着くとのことです」
キムPD「放送時間は?」
AD「あと10分です」
キムPD「(きりきりきり)うう…もうすぐって、どの程度のもうすぐや?」
AD「それは聞いてまへん」
キムPD「そこが一番大事なんやないの(ウキーッ)。とにかく少女時代の出番は一番最後に回せ。
  それで間に合わんかったらイ・スマンに『Kissing You』を歌わせて尺を埋める」
AD「じゃ、スマン先生を呼びますか?」
キムPD「真に受けるな、ボケ!」


がたたたたた
ごんっがんっごんっ…
ユリ「うひゃー」
スヨン「し、し、舌噛む〜」
運転手「しっかり掴まっといてや」
ソヒョン「ま、ま、ま、まさか路地裏の階段をクルマで駆け下りるとははははは」
テヨン「こここの方がはややややいんやややや」
どすーん!(着地)
全員「ひゃーっ(ぴょーん)」
運転手「よーし、見えた、麻浦大橋や。あれを渡ったらKBSやでぇ」
ヒョヨン「や、やったぁ」
クッキーマン「ええか、着いたらもお打ち合わせもテストもやってる暇がないそうや」
ソニ「まさにぶっつけ本番て訳やな」
クッキーマン「そこで移動中やが、今ここで衣装を着がえるしかない。アメも忘れんように持ってな」
ユリ「へーい…て、自分外に出てろや」
ヒョヨン「運ちゃんもな」
クッキーマン「走行中やぞ、無茶ゆうな。目をつぶっとるからその間に着替えろ」
ユリ「えー?」
運転手「…」
ヒョヨン「知らん振りすんな。貴様も目ぇ閉じらんかい(がばっ)」
運転手「わー、目を塞ぐな。危ない危ない!」
どかーん!
全員「どっしゃーっ!」


………


ざっぱー
びちゃびちゃ…
ソニ「ま、まさか欄干突き破って漢江に落ちるとは」
ヒョヨン「本日二度目の入水や」
ユリ「自分が無茶するからや」
ヒョヨン「そやかて運ちゃんの奴、自分は関係ないみたいな顔してるよって、むかついたんやもん」
運転手「だからって、走行中に目を塞いだら事故るに決まってるやないか。どないしてくれるねん、タクシー川の底やど」
ヒョヨン「それは後日事務所相手に裁判して頂戴。勝ったらいくらか貰えるかも」
運転手「(うきーっ)貴様相手に裁判してやるわ!」
クッキーマン「とにかくなんとか汝矣島に上陸した。あとは走れ!」
少女時代「げぇ」
テヨン「それしかないな。判った。みんなKBSまでダッシュや!」
ジェシカ「いややなぁ。こっちゃ眠いのに」
スヨン「腹減ったのに」
クッキーマン「ブツブツゆうな。さっさと行け。後のことはワシに任せろ」
全員「よーし、頼んだでッ!」
だだだだ…
クッキーマン「行ってもうたか…(がくっ)絶対間に合わせろや、みんな…
  ♪高く立て 赤旗を その影に 死を誓う
   卑怯者 去らば去れ 我らは赤旗守る…
運転手「シルミドかっ!」


でででで…
ユナ「(はぁはぁ)おお、走ってる内に衣装が乾いて来た」
ソニ「(ぜいぜい)うむ、これなら本番に支障なさそうやな。淡水で幸いした」
ユリ「(ふぅふぅ)それにしても、最後のクッキーマン、ちょっとカッコよかったと思わへん?」
ティパニ「(ひぃひぃ)アホ抜かせ、こんな目に遭うてるのも、全部あいつのせいやないか」
ヒョヨン「全くや」
テヨン「(はぁはぁ)あ、KBSや! KBSが見えて来たで!」
少女時代「(ぜいぜい)…や、やたっ!」


09


パク・チホン「♪のるる ぽごしぷん なれん
  もっちげ くでるる のあっちょ
AD「監督、少女時代が玄関に着いたそうです」
キムPD「来たか! 残り何分や?」
TK「7分です」
キムPD「走らせろ! まっすぐステージへ!」
TK「パク・チホンさんの曲が終わります!」
キムPD「すぐ少女時代の曲をかけて!」

ででででで
♪ジャーン
スヨン「(はぁはぁ)わぁ、もう『Kissing You』のイントロが!」
ティパニ「(ひぃひぃ)ステージはすぐそこや! 走って! 走って!」
ジェシカ「走ってるっちゅうの!」
テヨン「見えた、ステージの入り口や!」
FD「みなさーん、マイクを持って! マイクを取っていってくださーい」
ソニ「(むんず)インカムをつける暇はなしか?」
FD「返しはステージ上のスピーカーから出まーす」
ソヒョン「(ぐわしっ)ひゃー、もお歌が始まる〜!」 ←歌い出し担当


AD「少女時代がステージに到着しました!」
キムPD「す、滑り込みセーフ…(ぐったり)」


ででででで…
少女時代「♪トゥトゥル トゥトゥトゥ Kissing Baby〜(はぁはぁ)」
観客「キャーッ!」
ソヒョン「♪ちゃんなんすろん のえ きすえ きぶに ちょあ〜(ひいひい)」
少女時代「(も、もおこんな思い、二度といやや〜)」


AD「みんな笑顔で、ええ表情してます」
TK「まだ10代なのに、プロですねぇ(感心)」
キムPD「ふん。これで悲惨な顔されたら、こっちがたまらんがな」
AD「…(とかゆうて、まんざらでもなさそうやん)」


♪チャララララ〜ン
少女時代「お、終わったぁ(へなへなー)」
タブロ「少女時代のみなさん、ご苦労様でした。
  出演者のみなさん、どうぞステージにお集まり下さい。
  さぁ今週は2月の総合1位を決める週です。
  候補はキム・ドンリュルさん、少女時代さん、パク・チホンさんです」
キム・ソンウン「それでは集計結果でーす!」
かしゃかしゃかしゃ…ピコーン!
観客席「キャー!」
タブロ「2月の総合一位に輝いたのは少女時代です!」
キム・ソンウン「おめでとうございまーす!」
少女時代「…へ?」
タブロ「初の地上波1位やで。なんか、感想を」
ユリ「あ、ええと、その…(ポロポロ)あ、あれ?」
ジェシカ「ちょ、なんかわからんけど、涙が…」
ソニ「くすんくすん…緊張の糸が切れたもんで、か、感情がコントロール出来ん」
ユナ「結構追い込まれてたんやなぁ、ウチら」
ヒョヨン「こ、こうゆう時こそリーダーが所信を…」
テヨン「うわーん! こわかったよ〜! でもよかったよ〜!」
スヨン「あかん、陰に隠れて一番泣いてる」
ソヒョン「汚いわ、こっちかて泣きたいのに」
ティパニ「てか、自分ももお泣いてるで」
ソヒョン「ふぇ?」
ジェシカ「てか、みんな涙が止まらへんみたいや」
テヨン「うわーん(ずずずー)」
少女時代「えーん、えーん」
キム・ソンウン「なんじゃこいつら?」
タブロ「…(ワシには判るで。思いっきり泣け、みんな)」
観客「キャーキャー!」


クッキーマン「…ん? KBSの方から歓声が聞こえる?」
運転手「うそ?」
クッキーマン「間に合うたんやな、ワシには判るで(歓喜)」
運転手「絶対空耳やって」
クッキーマン「この歓声の大きさ…そうか1位もとったかぁ。さすがワシの育てた娘たちや。よおやった(ぐすん)。
  ♪力なく 道暗けれど 赤旗頭上になびく…うわーん」
運転手「笑うたり泣いたり、忙しい奴(呆)」
ナレーション:こうして少女時代の一番長い日は終わった。
  辛かったのか、嬉しかったのか、とにかくこの大変だった一日は、長くメンバーの心に刻まれていくであろう…






※2008年2月29日…
 この日少女時代は『ミュージックバンク』で地上波初の1位(2月度合算)を獲得した。
 が、受賞と同時にメンバー全員が大泣きしてしまい、ステージは異様な光景となった。


 KBS『ミュージックバンク』@2008_0229     


 こういう場では絶対泣かないと公言していたテヨンでさえ、メンバーの陰に隠れて涙を流していた。
 他の番組での1位受賞では、もっと笑顔が多いので、やはり普通ではないと思われた。


 初期の1位獲得の瞬間を集めた動画


 実はこの日、複数の営業を詰め込まれていた少女時代は、ギリギリの状況でKBSに向かう途中交通事故に遭遇、ヒョヨンが腰を打撲して病院に担ぎ込まれるという事件があったのだ。
 幸いヒョヨンは軽傷だったため、一向はKBSに急行。リハーサルもなにもなしで『ミュージックバンク』のステージに立った。
 パフォーマンス中は精一杯のプロ根性で笑顔を見せていたが、1位のコールと同時に緊張の糸が切れ、全員大泣きとなったのである。
 彼女らが受けていたプレッシャーの大きさがよく判る。



 ちなみに少女時代の『ミュージックバンク』での1位はこの年はこの日限り。翌週からジュエリーが『One More Time』で7種連続1位の快進撃。さらに6〜7月はワンダーガールズが『So Hot』で6週連続1位を獲得している。
 少女時代はこの後ユナのドラマなど個人活動に追われ、緩やかに暗黒時代へと入って行くのである。


※キャメルトロフィー…世界一過酷なアドベンチャーレース
    

第74話 少女時代の一番長い日(中編)

06(承前)


ヒョヨン「ちょっと、デビルマンの最終回てどおゆうことや? ちゃんとゆえや」
ソヒョン「つまり…腰から下がなんちゅうか非常に残念なことに…」
ユリ「ひーっ、見ちゃった(がたがた)」
ヒョヨン「ひ、ひ、悲鳴とか上げんといて。怖なるやないの」
ソヒョン「まぁ当事者は知らん方がええかも」
ヒョヨン「それが怖いんやって」
テヨン「とりあえずヒョヨンの下半身を探すのが先やないか? 腐らん内に」
ヒョヨン「探す? 腐る?」
ユナ「(しー)これ以上ガイシャの不安を煽ったらあかん。ここは死体は山程見慣れてる牝鹿刑事ユナが見聞しましょう」
ヒョヨン「死体やと? こらー、ウチの身体、どないなってるねん? ちゃんと説明せえや」
ユナ「部外者は引っ込んどいて」
ヒョヨン「誰が部外者や。一番の当事者やってーの」
ユナ「(じろじろ)ああっ、なんてこった」
テヨン「どおした!?」
ユナ「ガイシャの下半身がどこにすっ飛んでったかと回りばかり気にしてたら」
ヒョヨン「(ずーん)や、やっぱり、ウチの黄金の下半身がもげてもうたんやなぁ」
ユナ「うんにゃ、ちゃんとくっついたままやったわ」
ヒョヨン「え?」
ユナ「ただし180度折れ曲がって、背中に隠れてるけどな」
ソヒョン「よお見つけたな」
ユナ「はっはっは、ヒョヨンねえの耳の横にきっちり靴が突き出してるのに気付いたんや」
ジェシカ「よっ、名探偵!」
ソニ「ゆうてみたら、念仏の鉄に仕置きされた悪党みたいな格好になってる訳やな」
ヒョヨン「例えが悪すぎるわ」
ティパニ「そんな格好になるってことは、どっちゃにしろ脊椎はパッキン折れてるやろ?」
テヨン「確かに、この女に脊椎があるなら間違いない」
ヒョヨン「脊椎くらいあるわ!」
テヨン「へー、案外高等生物やったんやな(笑)」
ヒョヨン「クソー、殺す! 怪我が治ったら一番に殺す!」
ピーポーピーポー
ソヒョン「あ、救急車が来た」
テヨン「ええー? 誰が呼んだんや?」
クッキーマン「ワシやがな。当たり前やないか」
テヨン「(ちっ)余計なことしやがって」
ヒョヨン「余計なこと?(まさかタイヤ緩めたんこいつ違うやろな)」
ソニ「とにかく、一刻も早くヒョヨンを病院へ!」
救急救命士「わかりましたっ!」
スヨン「すいまへん。搬送先の病院に食堂はありますか?」
救急救命士「それは受け入れ先によりますね」
ヒョヨン「この期に及んでメシの心配かい!」


07


医者「あー、これは完全にパッキンいってますね」
ソニ「やっぱり」
ヒョヨン「治りますか?(びくびく)」
医者「うーむ。これまでプラム麻里子や門恵美子など多くのレスラーを診てきた私でも、これはちょっと」
ユリ「ちょっと…その選手らってひょっとして」
ソヒョン「悪魔の医者かもな」
クッキーマン「でもー、スケジュールが詰まってるんで、あと30分くらいで歩けるようにして欲しいんですよ」
医者「無茶言いますなぁ。判りました、とりあえず応急処置をして立てるようにはしておきますので、後でちゃんとした治療を受けて下さい」
ヒョヨン「だから自分がちゃんとした治療をせえや」
医者「(看護士に)じゃあセメダイン出して」
ヒョヨン「(げぇ)そんなんでくっつける気ぃか?」
ソヒョン「まるでプラモやな(笑)」


ナレーション:そんで九龍海水浴場…
カメラマン「そんじゃ、笑って! 撮りますよー」
少女時代「ニッコリ」
パシャ
カメラマン「ええですよー、まるで夏みたいや」
ソニ「嘘つけ」
ジェシカ「大体なんだって2月に海水浴場の告知撮らなあかんねん」
クッキーマン「この業界は半年前倒し。常識やないか」
ティパニ「それにしても寒々しい光景やな」
ユナ「水着になれとかゆわれんだけましやけど」
カメラマン「じゃあ次は『Kissing You』の衣装に替えて、アメ持って踊ってみましょう」
ヒョヨン「踊れねえっつってんだよ。こっちはよ(いらいら)」
カメラマン「それは困ったな…(ピーン)そやけどスチールやさかい、踊ってる風のポーズを取って貰えば」
ヒョヨン「そんじゃ上半身だけ…よっ」
カメラマン「うーん、足はもっとピッと上がりまへんかね」
ヒョヨン「無理ゆうなや。接着剤で固めてるんやから」
カメラマン「後ろの人、足を持って支えてあげて」
ユリ「(よいしょ)こお?」
ばきばきばき
ヒョヨン「ひゃー、股間から変な音がするー」
カメラマン「なんか不自然だなぁ。もっとこお優雅に」
ユリ「こんな感じ?」
べきべりばき…
ヒョヨン「あかーん、腰がもげるー」
ソヒョン「なんか『永遠に美しく』のメリル・ストリーブかゴールディ・ホーンみたいやな(笑)」
ヒョヨン「笑い事か!」
ソニ「所詮アイドルなんて会社の操り人形。黙ってええようにやらせとけ」
ヒョヨン「くそー、他人事やと思いやがって」


     寂しい九龍海水浴場


パシャ、パシャシャシャシャ…
カメラマン「OKでーす。お疲れ様でした」
少女時代「やれやれ」
カメラマン「これはええポスターが出来ると思いまっせ」
テヨン「心にもないお世辞を、どうもおおきに」
クッキーマン「うわ、もお2時過ぎかぁ。リハーサルは最後にして貰わんとあかんな」
ティパニ「はぁ?、もおソウルに帰るつもりか?」
クッキーマン「その通り。生放送は待ってくれへんからな」
ティパニ「ヒョヨンの治療は?」
クッキーマン「とりあえず命に別状はなさそうやし、本番が終わってからでもええんやない?」
ヒョヨン「踊れないのに、どおやって本番こなすんだよ(がうー)」
クッキーマン「ああ、そおかぁ(八方塞がり)」
ユナ「そおかぁ、じゃねーよ。ホンマに福利厚生の概念がない会社やな」
ソニ「芸能社が福利厚生なんか考えてやっていけるか!」
ユナ「ち、会社の犬め」
ヒョヨン「そやけど、さっきの医者もお手上げゆうてたし、ウチ治るのかなぁ(不安)」
カメラマン「それやったら腕のええ外科医、紹介しましょか? 大概の怪我は完治しまっせ。
  ワシも戦場カメラマンやってた頃、ティモールで蜂の巣にされた時にお世話になりましたけど、きれいに治りましたで」
ヒョヨン「え、そんな医者知ってんの?」
カメラマン「へえ。ちょっとお高いのが玉に瑕やけど」
クッキーマン「高い?」
カメラマン「保険が効かないんですわ。なんちゅうてももぐりの医者ですさかい」
ヒョヨン「今どきそんな医者おるの?」
クッキーマン「大丈夫なんか?」
カメラマン「まぁ変わったお人やから。そやけど腕は確かですわ。(ひょい)これ、電話番号です」
クッキーマン「じゃあ掛けてみるか、ダメ元で」
ヒョヨン「ダメな場合とか想定すんなよ」


ぷるるる…ぷるるる…
幼女「ちぇんちぇー、でんや。でんやなってゆ!」
無免許医「放っておけ」
幼女「んも〜! いっつもそーなんやかやぁ〜!」
留守電(ピッ)「現在外出中。診療希望の方は連絡先、氏名および病状、支払い可能な金額の提示をどうぞ。後日当方より連絡いたします」


ヒョヨン「あれ、留守電になってる」
カメラマン「あー、その人は絶対出ないですよ。とりあえず用件を言っておけば向こうから折り返してきますさかい」
ヒョヨン「もお、時間ないのに〜。まさかこのまま梨の礫ゆうことはないやろな。
  …えーと、ウチは少女時代のヒョヨンゆいますぅ。さっき交通事故で脊椎がパッキリいきよりましてん。
  今はセメダインで骨を接着してますけど、夕方には完治して踊れるようになりたいんでよろしゅうお願いしますぅ」


電話の声「お金はウチは持ってないので、後で事務所相手に裁判してください。勝ったらいくらか貰えると思います」
無免許医「…こいつはアホなんか?」
幼女「どーかんがえてもアホやよねー」
無免許医「それにしても脊椎が折れたなんて、ウソばっかつきやがって」
幼女「そうやの?」
無免許医「脊椎折れた奴が電話なんて出来る訳ないがな。
  よしっ、直接文句ゆうてやる…(がちゃ)もしもし」
電話の声「あ、出た! …よぼせよ〜」
無免許医「あんなぁ、これは切羽詰まった大金持ちだけが利用出来る回線なんやで。遊び半分で掛けて来んなや」
電話の声「遊び半分違いますよ」
幼女「じゃああそびぜんぶやよね〜?」
電話の声「違います! ウチ、ホンマに身体が半分に折れてて、下半身が全然動かへんのですよ〜」
無免許医「嘘つけ。それが脊椎折れた人間の喋り方か?」
電話の声「そこはまぁウチら鍛えてるから」
電話の声(男)「どけ、ワシが代わる…よぼせよ〜、ワシはこの娘のマネージャーですが、マジで腰が折れてるみたいなんです。
  下半身がぷらぷらしてモビールみたいになってるんですよ」
無免許医「下半身がモビール? ジオングみたいな?」
幼女「それはかはんしんがモビル」
無免許医「下半身がエーゲ海のような?」
幼女「それはジュディ・オング。どうせボケゆなら、ジオングの方とかけないでモビールとかけてくやさい」
無免許医「す、すまん」
電話の声(男)「真面目に話を聞いて下さい! 普通の人間なら死んでる怪我ですで」
無免許医「わかったわかった。ワシもそんなプラナリア並みの生命力を持った患者は初めてや。ちょっと見たいから連れて来なさい」
電話の声(男)「は、はい。で、先生はどこにいらっしゃるんで?」
無免許医「ワシは江陵市の岬の館に住んどるが」


クッキーマン「(どひょー)そ、そんなに北なんすか?」
電話の声「ワシはコ・ヒョンジョンさんが大好きなんじゃ。そんでドラマ『砂時計』のロケ地に住んで思い出に浸っておるんや」
ジェシカ「うえー、気持ち悪っ。こんな奴がサセンペンになるんやで」
電話の声「放っておけや!(ぷんぷん)」
クッキーマン「どおしよう。江陵市なんか回ってたら確実に『ミューバン』に間に合わんど」
ジェシカ「それでも行くしかないやろ。このままじゃヒョヨンの奴、一生モビールのままやど」
ヒョヨン「モビールはいややー。せめて歩けるようになりたいー」
クッキーマン「ううう…地上波1位になれるチャンスやのに」
ティパニ「そんなチャンスはまた来る(かもしれん)。そやけど、ヒョヨンには明日が来るかも判らんのやぞ」
ヒョヨン「そおゆう言い方はちょっと…」
クッキーマン「判った、治療を優先しよう!
  先生、これから患者とそちらに向かいます。どうかよろしくお願いします!」
電話の声「まってゆかやね〜」
がちゃん
クッキーマン「では、行きたくないけど、ワシらは江陵市に向かう」
ヒョヨン「いちいち棘のある言い方すんな」
ジェシカ「結局韓国一周する羽目になったなぁ」
ソニ「まさに世界を股に掛けるアイドルにふさわしい営業や」
ティパニ「そんなことゆわれても全然前向きに考えられへんわ」
スヨン「腹減ったなぁ」

第73話 少女時代の一番長い日(前編)

※この作品は今日では一部不適切な表現がありますが、時代背景や作品の芸術性を尊重しそのまま掲載します




ナレーション:これは2008年2月29日に実際にあった出来事です…


01


ぶぅ〜、キキキー
クッキーマン「(がちゃ)着いたで」
ヒョヨン「んん〜、(よたよた)ここ、どこ?」
クッキーマン「莞島(ワンド)や」
ヒョヨン「莞島…て、ゆわれてもさっぱり」
テヨン「(やな予感)まさか、全羅南道の莞島違うやろな」
クッキーマン「ピンポーン! ソウルから徹夜で移動すること6時間。私たちはいま全羅南道莞島郡は莞島旅客ターミナルにいまーす」
少女時代「どっしゃー(ずっこけ)」
テヨン「全羅道の住人であるウチすら、生涯に何度も行かんところやど」
ティパニ「そんな本土最南端の地になんの用が…?」
クッキーマン「目的地はここじゃありませーん。
  今日はこれからフェリーで青山島(チョンサンド)に渡り、”菜の花ゆっくり歩こう祭り”に参加して営業を行いまーす。
  日本からQちゃんもやって来るよ」
ユナ「パボ野郎、爽やかな顔でふざけたことゆうんじゃねぇ」
ユリ「なにが”菜の花ゆっくり歩こう祭り”じゃ、Qちゃんじゃ」
ジェシカ「こちとら毎日営業営業の強行軍で、ボロボロやっちゅうねん」
ティパニ「ウチなんか『Kissing You』で活動始めてから2ヶ月、ずっと生理不順に悩まされてるんやど」
ソヒョン「それは別な原因では?」
ティパニ「あ、自分、アイドルに向かってゆうたらあかんことを」
ソヒョン「そやけど、たまに夜の営業がない時も遊び歩いて宿所に帰って来ぉへんし」
クッキーマン「同室同士の喧嘩ならフェリーの中でお願いしまーす。片道50分あるので、決着をつけるには充分でしょう」
ジェシカ「そんな時間あるならもっぺん寝るわ、ボケ」
ユリ「青山島とやらはそない遠いんかぁ」
スヨン「質問ー! フェリーの中に食堂はありますか?」
クッキーマン「さぁ。よお知らんけど、軽食くらい売ってるんやない?」
スヨン「なんや不安やな。ターミナルの売店で朝飯買い込んでおこう」
クッキーマン「買うなら早よしてや。8時発のフェリーに乗らなあかんからな」
スヨン「ゲゲッ、あと10分や(焦)」
ソニ「そんな早う青山島とやらに渡って、ウチらで1日イベント持たせろとか無茶ゆうんやないやろな?」
ユリ「こっちゃ手持ち5〜6曲しかないんやで」
クッキーマン「大丈夫。チャチャッと1曲だけアメ振って踊ったらOKや。
  すぐ9時50分のフェリーで帰って来るから」
テヨン「滞在時間1時間か? 超特急の営業やな、おい」
クッキーマン「今日は忙しいで。イッコでも押したら、その後のスケジュールがメチャクチャなってえらい怒られるから、気合い入れろや」
ソニ「そんな綱渡りなスケジュール組むなや、まったく(ぷんぷん)」
クッキーマン「文句ゆうな。売り出し中の新人なら当然じゃ。むしろこんだけスケジュールを埋めてくれたマネージャーにいさん方に感謝せい」
ジェシカ「つーんだ」
クッキーマン「あ、反抗的。憶えとけよ、いつか自分だけにスケジュール入れてやらんようしたるからな」


02


ポー…(汽笛)
ヒョヨン「おい(ゆさゆさ)、起きれ、着いたで」
ジェシカ「むにゃむにゃ…着いたて、どこ?」
クッキーマン「青山島やがな。ここで”菜の花ゆっくり歩こう祭り”に参加するんや」
ジェシカ「あー、そうやったなぁ」
ソニ「とりあえず涎拭きや」
ユナ「おおっ、桟橋を見ろや。島民が手を振って歓迎してるで」
ソヒョン「ははは、人がゴミのようや」
ティパニ「それやめれって」
クッキーマン「まぁ、とりあえず上陸するで。荷物忘れるな」
全員「へーい」


里長「(よぼよぼ)よおこそ青山島へおいで下さった。歓迎しますで」
クッキーマン「こちらこそ、歓迎感謝いたします」
里長「して、みなさんは5キロコースに出場で? それとも10キロコース?」
クッキーマン「いや、ワシらは祭りを盛り上げるために呼ばれたアイドルグループでして」
里長「なぬ、業者かい? ちぇー、挨拶して損したわ」
ジェシカ「わ、手の平返しやがった」
里長「おーい、誰か若いの。この業者をさっさとステージに案内しろ。観光客の前をウロウロさせるな」
若者「へーい。みなさん、こちらの方へどうぞ」
テヨン「むかつくわー。南道のくせに人を差別するとは」
クッキーマン「自分がゆうなよ」
若者「すいませんねえ。ここはちょっと前まで観光客が押し寄せて、甘い汁が吸えたもんやから、里長がすっかり勘違いしちゃんて」
ジェシカ「観光客?」
若者「へい。この丘から、後ろを振り返ってご覧なせえ」
ユリ「どれどれ…わっ」
少女時代「これは凄い」


    


ユナ「一面の菜の花…どこかで見たような…」
若者「そおです、ここは『冬のソナタ』で有名なユン・ソクホ監督の四季シリーズ最終章『春のワルツ』の舞台となった島ですねん」
ユナ「そうやったんか」
若者「で、当島では毎年”菜の花ゆっくり歩こう祭り”ちゅうのを開催しておりまして、たくさんの観光客のみなさんに景色の素晴らしさを味わいながら、運動して貰おうとやっとるんですわ」
スヨン「ははぁ。それをウチらが歌と応援で盛り上げたらええんやな」
若者「そうですとも。里長は存じませんでしたが、みなさんのことは若い連中はみんな知っております。そのお姿を見るだけで大いに盛り上がることでしょう」
ティパニ「そおゆうことならまかせなさーい!」
若者「お子さんたちが一緒に『Tell Me』踊りたがるかも知れませんが、害はないので、そうゆうときはステージに上げてあげてくださいね」
少女時代「は? 『Tell Me』?」
若者「おんや、どうしました?」
少女時代「…(そんなこったろうと思うた)」


パパーン、パパパーン
ソニ「お、遠くで爆竹が」
ヒョヨン「いよいよスタートやな」
ユリ「と、思う間もなく、えらい数の観光客が歩いて来たで」


     青山島菜の花スローウォークフェスタ


ユナ「わぁ、これは凄い。こんなクソ田舎のイベントとは思えん」
ソニ「こんな綺麗な景色の中、菜の花畑の中にステージ作ってもらって、こんなにたくさんの人にパフォーマンスを見ていただくなんて、幸せやなぁ(ぐすん)」
クッキーマン「なにを西川きよしみたいなことゆうてるねん。さっさと歌って踊って。次のフェリーには絶対乗り遅れられへんのやど」
スヨン「へいへい。ほなミュージックスタート!」
じゃーん
少女時代「♪トゥルットゥ、トゥトゥ、Kissing Baby〜 みなさーん、がんばってくださーい!」
参加者「はぁ?(ポカーン)」
参加者「こいつら、なにしてんだべ?」
スヨン「あかん。年寄りはともかく、若者や子どもまで状況を理解してない」
ジェシカ「こんな孤島の菜の花畑にいきなりアイドルが現れるなんて、やっぱり現実感がなさ過ぎなんやろうな」
テヨン「いんや、違う」
ジェシカ「違う? なにが?」
テヨン「この道、どっかで見たことあると思うてたら映画『西便制』の舞台になったところや」
ユナ「マジで?」


     映画『風の丘を越えて西便制)』


ソニ「あー、ホンマや」
ソヒョン「よお見たら確かに」
若者「申し忘れました。確かにここは『西便制』で最も有名なショット、旅のパンソリ芸人親子が歌いながら歩いた道であります。
  『春のワルツ』以前は、『西便制』のファンも多く訪れておりました」
テヨン「なるほど。それでポップス歌うてもピンと来んはずや」
ソニ「とゆうと?」
テヨン「この地ではパンソリを歌って盛り上げろ、ゆうことや」
ソニ「げげー」
クッキーマン「アホか。ただでさえ時間ないのに、悠長にパンソリなんかやってられるか」
テヨン「そやけど目の前の客を喜ばせられへんのは、ウチのプロ精神に反する。
  ここは一発歌わせて貰うで(すっく)。
  ♪太鼓はドゥルルルル〜!
クッキーマン「わぁ、始めやがった」
ソニ「どないする?」
ヒョヨン「どないこもないも、パンソリなんか歌えるのはテヨンしかおらんし。静観あるのみや」
ジェシカ「そやな(どっこいしょ)。そんじゃ、その間ちょっと寝よ」
ソニ「ステージで寝るなよ(呆)」
テヨン「♪シムチョンは よろめきつつも 舳先に向かいて 自らを省み
  ”勇気なきは孝行が足りぬゆえ” チマをまくりあげ
  両目を固く閉じれば ひと思いにいざ飛び込まん、ウルルルルル…
参加者「お、『沈清伝(シムチョンジョン)』だわい。懐かしいのぉ」
参加者「しかも南道式の西便制じゃないか。やはりパンソリはこうでなくては」
ティパニ「なんや、急に人が集まりだしたで」
ソニ「やっぱ、そうゆう土地柄なんやなぁ」

テヨン「♪両手を羽ばたかせ 雁の如く宙に浮くや 大海原へザブ〜ン…
参加者「いいぞー、名場面じゃー」
ジェシカ「(えへへ)お気持ちはこの缶かんの中へ入れてくださいね〜」
ソニ「おいおい、投げ銭集め始めたで」
ティパニ「寝てたん違うんか?」
ヒョヨン「さすが儲け時には賢い奴。ウチも集めようっと」
クッキーマン「おーい、もお出ないとフェリーに間に合わへんどー」

03


ドダダダダーッ!
ポー…(汽笛)
クッキーマン「わぁー、あかーん!」
ソニ「(はぁはぁ)フェリーがもお港の外へ」
スヨン「間に合わへんかったかぁ」
ユナ「こらー、戻って来ーい!」
ジェシカ「調子に乗っていつまでもパンソリ歌うてるからや」
テヨン「(むか)なんやと! 自分こそ”投げ銭集めるからもっと伸ばせ”ゆうサイン送って来たやないか」
ジェシカ「程度ってモンがあるやろ」
テヨン「シャーッ」
ジェシカ「がるるる」
クッキーマン「やめい、気が滅入る。
  とにかくフェリーは行ってもうた。しゃーけど、ワシらはなにがなんでも午前中に蔚州郡に行かねばならん。
  なんとか善後策を考えよう」
ユリ「午前中に蔚州やて?」
ヒョヨン「無茶や。直線距離でも250キロはあるで」
スヨン「昼飯抜いても絶対無理や。それに昼飯抜く気はさらさらないしな」
クッキーマン「どおしよう。蔚州のあとは九龍海水浴場で海開きポスター撮影しなきゃならないのに」
テヨン「てことは陽のある内に慶尚北道まで移動かい」
ソニ「無理じゃね?」
クッキーマン「そうやないんや。今日は夕方から『ミュージックバンク』に生出演あるから、16時までには汝矣島に帰っておきたい。九龍海水浴場はその帰り道にちょっと寄るだけのつもりやってん」
ユナ「パボじゃね?(呆)」
ヒョヨン「貴様欧米人か? 韓国の広さを嘗めたスケジュール組みやがって」
テヨン「こうなったら蔚州も九龍海水浴場も無理や。何とか次のフェリーで本土に戻って、『ミューバン』に出るしかない」
クッキーマン「そやけど営業は確実に金になるよって外せないよお」
テヨン「ほんならKBSに電話して出演をキャンセルせえや」
クッキーマン「それもあかん。自分ら今日は2月合算1位になる可能性があるんや」
ジェシカ「ええっ?」
クッキーマン「地上波で初の1位やぞ。そんな日に欠席しとうないやろ」
ソニ「てか、欠席したら1位候補から外されるに決まってるやん」
クッキーマン「そやから、どうしても『ミューバン』には出なあかんねん」
ユナ「(うがーっ)なんでそんな大事な日に、アホみたいなスケジュール組んでくれたんや」
クッキーマン「す、すまん。欲張った」
ティパニ「こんなガチャガチャした日、そう何年に一回もないやろな」
ソヒョン「そもそも今日2月29日が4年に一回しかないからな」
ヒョヨン「上手いことゆうてる場合か。こうなったら泳いで本土まで戻るで」
少女時代「はぁー?」
ヒョヨン「次のフェリーは13時発。とても待ってはおられん。泳いだ方が早い」
スヨン「そら自分は仁川育ちやから泳ぎは得意やろうけど…」
ソヒョン「フェリーでさえ50分かかる距離を泳いだら何分かかることやら」
ヒョヨン「海兵隊なら毎日泳いでる距離や。四の五のゆうんじゃねぇ。さっさと荷物を頭の上に固定せえ!」
ソニ「うひゃー、マジでやる気か」
ユリ「仕方ない。アイドルと書いて移動と読む。これも仕事や」
ジェシカ「そんな単純に割り切れんがな」
スヨン「腹減ったなぁ」


04


ザッパーン!
ぶちゃ、びちゃ、びちゃ…
ヒョヨン「つ、着いたぁ。陸や」
ソニ「うーむ。頭からワカメ被ってもおた。アイドルたる者が情けない」
ジェシカ「それよりここ、どこやねん?」
クッキーマン「だいぶ東に流されたよって、莞島ちゅうことはなさそうやな」
スヨン「お、あそこに釣り人がおるど。ちょいと訊いてみよう」
ユナ「言葉通じるんかいな」
スヨン「スミマセーン!」 ←念のため日本語
釣り人「…わぁ、半漁人!」
スヨン「誰が半漁人や! …て、おっちゃん、韓国の人?」
釣り人「(ギロリ)ワシが韓国人かやと? 失敬やな。違うわ!」
スヨン「ち、違うん? ほなここは?」
釣り人「ここは麗水(ヨス)や」
ジェシカ「麗水! 韓国やないか。ビックリしたわぁ」
スヨン「ほんならおっちゃんは一体なに人なん?」
釣り人「ワシは去年脱北して来た朝鮮人じゃい(えっへん)」
テヨン「紛らわしいわ、ボケ!(どげしっ)」
釣り人「(きゃいーん)韓国人て野蛮やから嫌い」
ヒョヨン「それにしても麗水とは大ラッキーやな」
クッキーマン「うむ。普通にフェリーに乗るより速かったかも」
ヒョヨン「ウチのおかげや、感謝せい」
ティパニ「結果オーライだっただけやん」
クッキーマン「とにかく麗水ならそこそこ大きい街や。すぐクルマを借りて出発したら、なんとか営業に間に合うように蔚州に着くかも」
スヨン「昼飯は?」
テヨン「さっき捕まえたイルカでも車内で囓っとけ」
スヨン「いやー、それは可哀想やわ−。イルカちゃん、可愛ええのに」
テヨン「なら我慢しとき」
スヨン「ちぇー。仕方ない、イルカちゃんと目ぇ合わせんですむように、尻尾の方から囓ったろ」
ユナ「結局食うんかい(呆)」


05


♪パンパカパーン
司会者「城、それは古代からのメッセージにして、永遠の浪漫です。
  戦争のために作られた建築物でありながら、何故これほど私たちを魅了するのでしょう。
  城にとりつかれた者たちが、城を通じて親交を深め、平和の尊さを考える”韓日倭城シンポジウム”が今年も無事開催される運びとなりました。
  今年は韓国側が主催とゆうことで、日本から50人の参加者をお迎えして、ここ西生浦倭城を舞台に行われまーす」」
参加者「パチパチパチ」


     西生浦倭城


ソヒョン「なんとか開会式に間に合うたのはええけど、なんとも場違いなイベントやな」
ティパニ「ホンマやで。なんやねん、倭城シンポジウムて? 大昔の石垣見てなにが楽しいねん」
クッキーマン「しー。クライアントの悪口ゆうな。黙って整列しとけや」
司会者「今年の舞台となります、西生浦倭城は悪鬼加藤清正文禄・慶長の役の折りに築いたもので、未だ倭式の石垣が残っております。
  オープニングイベントとしまして、韓国が誇るNo.2ガールズアイドルグループ少女時代によりますパフォーマンスと…」
ユナ「(ずる)No.2グループとは、また馬鹿正直な司会者やな」
司会者「悪鬼加藤清正ゆかりの地、熊本市蔚山(うるさん)町からお越しいただいた”ぼした祭り”保存会のみなさまによります、倭式祭礼のパフォーマンスをご覧いただきまーす」
ヒョヨン「へー、日本にも”蔚山”て地名があるんやね」
日本人「(ぬぅ)あっとたい」
ヒョヨン「おっ?」
日本人「せいしょこ(清正公)さんの作らした熊本城の裏手にあっと。せいしょこさんの蔚山での活躍ば記念してから名前ばつけたったい。
  せいしょこさんはおったちんとって神さまんごたもんだけんね」
ヒョヨン「は、はぁ…(さっぱりわからん)」
スヨン「これは日本語のスキルを上げるチャンスかも。
  あのー、”ぼした祭り”というのも、加藤清正公にちなんだお祭りなんですか?」
日本人「そぎゃんたい。せいしょこさんの朝鮮さん行って来らしたでしょうが? 当然大勝ちたい。武将たちも口々に”おるはチョンば五人殺した”、”んにゃ、おるは十人殺した”ちゅうて自慢ばすっじゃなかね? そっが藤崎宮の秋の大祭と結びついて、”ぼしたー”、”ぼしたー”ておめきながら練り歩くごてなったったい」
スヨン「な、なるほど(なんや判らんけど、この会話はものすごく危険な香りがする)」


     藤崎宮秋の例大祭


ソヒョン「”ぼした”ってどおゆう意味ですか?」
日本人「”ぼした”ね? そらあれたい、もともとは”せいしょこさんがチョンば滅ぼしたばーい”ちゅう意味で…」※諸説あります
クッキーマン「あかーん!」
ソニ「ここでそんなパフォーマンスやられたら、韓日戦争が勃発するで(汗)」
ヒョヨン「多分主催側はそんな史実知らんと呼んでるんやろうけど、危なすぎや」
クッキーマン「これはさっさとパフォーマンスを済ませて、さっさといなくなるにこしたことはないな」
少女時代「賛成や」


少女時代「♪トゥルットゥ、トゥトゥ、Kissing Baby〜 お城、ステキですねー!」
参加者「パチパチパチ」
♪じゃーん
少女時代「それじゃ、ウチらはこれで〜(バイバイキーン)」
日本人「あ、なんね、”ぼした”ば見ていかんとね?」
スヨン「見たい気持ちは山々ですが、次の営業に急がないといけませーん」
クッキーマン「めっちゃ押してますんで、すんまへん」
日本人「かぁー、韓国人ちゃ忙しかねぇ」
少女時代「また、日本でお会いしましょう!」
ブゥー
クッキーマン「あ、あぶなかった(汗)」
ソニ「あんな連中と同じイベントに参加したとばれたら、速攻で好日のレッテルが貼られるわ」
ジェシカ「営業詰め込むのもええけど、もう少し中身を吟味せえよ」
クッキーマン「も、申し訳ない」
テヨン「とにかく次の営業や。急げ」
スヨン「腹減った」


06


クッキーマン「まぁ救いは太白山脈越えをせんでええことやな」
ティパニ「東海岸を延々北上するってなかなかないもんなぁ」
ソニ「海がキレイやなぁ…」
ジェシカ「…スピー」
ソニ「景色見ろや! どんだけ寝るねん!」
ユリ「まぁ起きてるとうるさいから寝かせておこう」
スヨン「腹減った」
ユナ「他にゆうことないんかい(怒)」
ヒョヨン「九龍海水浴場ってどおゆうとこ?」
テヨン「よお知らんけど、季節外れの海水浴場なんてみんな同じやろ。人がおらんとゴミだらけで」
クッキーマン「あと近くに日本人街があるな」
ヒョヨン「ホンマ?」
クッキーマン「帝政時代に日本人が多く住んでた名残で、橋本善吉邸とか豪邸が一般開放されてる」
ヒョヨン「へー、見て行こうや」
ソニ「昔の日本人の家見てなにがおもろいねん。ベルサイユ宮殿ならともかく」
ヒョヨン「ちぇー、風情のない奴」
クッキーマン「おわっ!」
ウキョキョキョキョ!
全員「わーっ」
キキキ、ガッシャーン!
全員「どっしゃーっ(ごろんごろん!)」
ぷしゅー
クッキーマン「(よろよろ)だ、大丈夫か、みんな?」
ティパニ「いててて…どないしたん?」
クッキーマン「ネコを避けようと急ハンドル切ったらタイヤが外れた」
ソニ「はぁ? 安いクルマ借りるからや(怒)」
ユリ「大変や−! シカが意識あらへん」
クッキーマン「なんやてぇ?」
ユリ「シカ、シカ、返事せえや!」
ジェシカ「…スピー」
ソニ「(かくん)寝てるだけや」
ユナ「わーっ!」
テヨン「今度はどおした?」
ユナ「ヒョヨンねえが…ヒョヨンねえがっ(ぶるぶる)」
テヨン「どれどれ…うげー、これは」
ティパニ「きゃーっ!」
ヒョヨン「なんや、気分悪いな。なんでウチ見て悲鳴上げるねん?」
ソヒョン「そ、そやかて、おねえ痛くあらへんの?」
ヒョヨン「そら痛いがな。肘とか擦りむいてもうたし」
テヨン「いや…その、腰から下の方は?」
ヒョヨン「下半身? …いや、とくになにも感じへんけどな。
  ちょっと見てみるか…あれ、身体が動かせん。どないなっとるんや?」
テヨン「あ、あんまり無理せん方がエエで」
ヒョヨン「無理はしてへんけど…なぁ、ウチの身体、どないなってんの? 教えてぇな」
ソヒョン「なんちゅうか、一見デビルマン(コミック版)の最終回みたいになってるで」
ヒョヨン「はぁ?」


続く






※おまけ…『春のワルツ』で象徴的に登場するハート型の入り江は青山島ではなく多島海(タドヘ)海上国立公園に属する飛禽島(ピグムド)にある。