第71話 チョン・ミンジュ

ナレーション:それは孤独のハロプロヲタク・井之頭ゴローが訪韓する数週間前こと…


JOO「(そわそわ、そわそわ)あー、いよいよデビューやなぁ。ドキドキするわー。ドキドキしすぎて胸が苦しい。
  こら、静まれウチの心臓。そんなに暴れたらあかん。いっそ止まってしまえ」
……
JOO「あかんあかん、心臓止まったら死んでまうがな(ぶるぶる)。キンチョーしてなに口走っとるねん、ウチ。
  そや、リハーサル前に共演の先輩方に挨拶して廻らんと。忘れん内に行っとこう」


こんこん、こんこん
JOO「すんまへーん」
声「誰ですか? 押し売りならいりませんよ」
JOO「押し売りやおまへーん」
声「新聞ならもうとってます」
JOO「新聞の勧誘でもありまへーん」
声「ほんなら誰ですか?」
JOO「今日デビューする新人でおますー。挨拶に参りましてん」
声「…」
がちゃ
ソヒョン「(ぬー)あ、ホンマに新人ぽい」
JOO「ホンマですがな。大体テレビ局の楽屋に押し売りや讀賣が来る訳おまへんがな」
ソヒョン「それが来るから用心しとるんでっせ」
JOO「マジでー?」
ヒョヨン「(ひょい)自分もこれから芸能人になるんやったら気をつけるこっちゃ。パパラッチはどんなモノにでも化けて近寄って来よる」
JOO「あー、パパラッチかぁ(納得)」
ユナ「ほんで、自分は?」
JOO「あ、これは失礼いたしました。本日JYPエンターテインメントからデビューいたしますJOOと申します(ぺこりん)」
ティパニ「チュ?」
スヨン「いやーん、エロい名前やわー(もんぎゅもんぎゅ)」
JOO「一応”ジュ”と濁ってもらえるとありがたいです」
ジェシカ「憶えとったらな。で、他のメンボは?」
JOO「は?」
ジェシカ「ジュだかチュだか知らんけど、自分ら何人グループなん?」
JOO「いえ、ウチひとりですけど?」
ソニ「ひとりでグループを代表して挨拶に来たと?」
ユナ「ナメたグループやなぁ」
JOO「そやなくて、ウチはソロ歌手なんですぅ」

少女時代「ええーっ!」
ソニ「こ、このソロ歌手冬の時代に…(驚)」
JOO「そんなに驚くことですか?」
ジェシカ「そらもお(こっくり)」
JOO「なるほど、みなさんはグループなんですね。(ひーふー)9人組で…G.ジェネレーションとおっしゃる?」
ユリ「ガンダムかっ! みんなで戦術シミュレーションゲームでもやれっちゅうんか?」
JOO「そやけど、この壁に貼ってある紙にそお書いてありますが」


    


ソニ「おいおい、誰や、こんなもん貼ったの?」
ソヒョン「なんかさっきスタイリストの誰かが貼ってたで。衣装チェックのためやないの?」
テヨン「紛らわしいわっ(ぷんぷん)」
JOO「えーと、どおゆうことでしょう? それと何故そっちの方は頭にアイスクリームのコーンを乗っけてらっしゃるんでしょう?」
ソニ「これはアイスクリーム違(ちゃ)う。強いてゆうたらクラッカーや」
JOO「ますます訳が判りまへんけど」
ヒョヨン「ここに貼ってある写真は、ウチらの1集アルバムのジャケットやねん。
  今日のステージはこのジャケットと同じ衣装でパフォーマンスをすることになってるさかい、スタイリストチームが間違えんように参考で貼ってる訳や。判った?」
JOO「なんとなく」
ヒョヨン「そんで、この写真でウチらが掛けとる襷に書いてある、コレ。
  確かにウチらの名前やけど、よお見てみ。”G.ジェネレーション”やなくて”Girls' Generation”て書いてあるやろ」
JOO「(じー)あ、ホンマですね」
ヒョヨン「芸能界は縦社会。先輩の名前、間違えたらあかんで」
JOO「判りました。ほんならみなさんは”Girls' Generation”さんなんですね」
ソニ「いや、それもちょっと違うんやけどね」
JOO「ええっ?」
ソニ「ウチらの韓国での呼び名は”少女時代”ゆうねん。そやけど、将来世界に進出した場合に備えて”Girls' Generation”て美名も考えてある。
  で、ちょっと格好つける時は美名で表記したりするねん」
JOO「また判らなくなりました」
ジェシカ「なんちゅう察しの悪い新人や(呆)」
ソニ「こんだけ丁寧に説明しとるのに、なんでやっ!?(怒)」
JOO「だって芸名って必ず美名でないといけないものなんでしょう?」
ソニ「はぁ?」
ティパニ「そうやったらええなぁ。ウチも”パニ”とか呼ばれなくて済むし」
JOO「ウチの事務所では、代表がJYPだし、トップスターがRain、社会現象を巻き起こしてる先輩方もWonder Girlsとおっしゃるんです。
  ウチもチョン・ミンジュて名前なのに、デビューに当たってJOOって芸名つけられましたし」
ユリ「なるほど、一理ある(笑)」
テヨン「あるか、ボケ。
  ええか…JYPならそうかもしれん。が、ウチらはSMじゃ。SMは伝統的に、一流タレントに名前を4文字漢字で表すことになっとる。
  東方神起天上智喜、少女時代、弱肉強食、四面楚歌、自暴自棄、品川庄司…」
JOO「はぁ(ぼんやり)」
ユナ「品川庄司はやめたがよかった…」
JOO「ちなみにみなさん、なんて歌を歌ってらっしゃるんでっか?」
テヨン「かー。先輩の名前も知らなきゃ、歌も知らんとは。失礼千万」
JOO「堪忍してくださいー。ウチ、ほとんど稽古場にこもってたから、芸能界のことまだよく知らないんです」
ヒョヨン「ウチらの活動曲は『少女時代』や、今んとこ」
JOO「え? え? なんて?」
ヒョヨン「『少女時代』!」
JOO「そ、それはグループ名では?」
ヒョヨン「そやからグループ名も少女時代で活動曲も『少女時代』なんや!」
JOO「な、なんてことでしょう…(くらくら)」
ソヒョン「確かに混乱するわなぁ(笑)」
JOO「グループ名は소녀시대とか少女時代とか少女时代とかGirls' GenerationとかGジェネとか国に合わせて複数用意してるのに、肝心の曲名がチーム名と被るとは」
ユリ「Gジェネ関係ないって」
JOO「どうにも政策に統一感がありまへん。まともなプロデューサーが不在の事務所では?」
ティパニ「やかましい。これはあえてチーム名と曲名を同じにした戦略じゃい。
  ウチらもまだ新人。少しでも多くのペンに憶えて貰わねばならんからな」
JOO「少しでも多くのペン…そやけどペンやったら名前くらい憶えてて当然なのでは?」
ティパニ「うっ…」
ジェシカ「なんか融通の効かん娘やな。くそ真面目な優等生タイプか。すかん(ぷん)」
JOO「げっ…(ひゃー、デビュー初日にして先輩タレントに嫌われたらピンチや)全然、全然優等生やないです。
  その証拠に中学時代から酒もタバコもガンガンやってました」
ジェシカ「ホンマかぁ?」
JOO「ホンマです、ホンマです。これが証拠写真です」


    


ジェシカ「お、ホンマや。自分、やるやんけ」
JOO「えへへへ(笑)」
ジェシカ「えへへへ…(ええもん手に入れた。いずれこのガキが邪魔になるようなら、この写真、マスコミに流したろ)」
テヨン「それにしても、ソロデビューとは…(ふっ)よっぽど期待されてないに違いない」
JOO「そ、そおですか? 一応JYP先生の愛弟子と自認してるんでっけど」
テヨン「自認するも辞任するも勝手やけど、ホンマに大事な練習生ならなんや売れそうなグループでデビューさせるやろう。
  ウチかて1000年に一度の逸材、天使すぎるテヨン様と呼ばれておったけど、大事をとってこのグループからデビューしたんやで」
JOO「天狗すぎるテヨン様?」
テヨン「天使じゃ、天使! ウチがいつ芭蕉団扇持って1本歯の高下駄履いた姿で枝から枝へ飛び移ったかっちゅうの」
ソニ「いやー、言い得て妙かも、天狗すぎる…(ぷぷぷ)」
テヨン「そんなウチかて、デビュー2年目のこの正月にやっとソロ曲出さして貰うたばかり。それもドラマのOSTや。
  ソロゆうのはそれぐらいリスクが高い。
  貴様のようなチンチクリンがソロデビューするなど何かの間違いに決まっとる」
JOO「そおかなぁ。デビュー曲はJYP先生の秘蔵の曲やって聞いたけどなぁ」
テヨン「おおかた脾臓辺りから取り出したんやろう」
ティパニ「どおゆう意味や?」
ユナ「どっかのグループに入れようとして、タイプミスで入れきれなかったのかも」
ソヒョン「あー、タトル氏をバトル氏と打ち間違えたみたいにね」
ソニ「難易度の高いボケやなぁ」
JOO「さっぱりわかりまへーん」
ヒョヨン「ま、あんまり気にすんな。それよりさっさと楽屋周り終わらせて、リハーサルに備えたらどないや。
  大事なデビュー日やろ」
JOO「そ、そおですね。お優しい先輩、おおきに。
  ほんなら今後ともよろしくお願いしますぅ(ペコリン)」
テヨン「へいへい」
ばたん

スヨン「さ、昼飯でも食うか」
ユリ「はぁ? 今食うてたのは?」
スヨン「あれは朝飯と昼飯の中間食や」
ユリ「うへー、認知症の犬並みに飯食う奴」
スヨン「失礼な。大体、認知症の犬て見たことあるんか」
ソヒョン「認知症の犬と狂犬病の老人では、どっちが治りにくいかなぁ」
ジェシカ「やかまし。ちっとも眠れへんど」
ナレーション:新人歌手JOOが退室してわずか3秒。
  すっかりその存在は忘れられていた…


ムジ鳥「一週間後ーーー!」
こんこん、こんこん
JOO「すんまへーん」
声「誰ですか? 押し売りならいりませんよ」
JOO「押し売りやおまへーん」
声「新聞ならもうとってます」
JOO「新聞の勧誘でもありまへーん」
声「ほんなら誰ですか?」
JOO「先週デビューした新人でおますー。挨拶に参りましてん」
声「…」
がちゃ
ソヒョン「(ぬー)あ、ホンマに新人ぽい」
JOO「ホンマですがな。大体テレビ局の楽屋に押し売りや讀賣が来る訳おまへんがな」
ソヒョン「それが来るから用心しとるんでっせ」
JOO「マジでー?」
ソニ「やめろ! 貴様らテープレコーダーか。
  こいつ、先週も挨拶に来たやろ」
ソヒョン「そうやったっけ?」
JOO「そおでしたっけ?」
ソニ「自分もかっ? JYPの愛弟子ゆうとったやんけ」
JOO「そおですけど…ウチが挨拶したのは少女時代さんやし」
ソニ「ウチらが少女時代や!」
JOO「ええーーー? でもでも、格好が違う」
ジェシカ「毎回同じ格好で歌うか、みっともない。そもそも先週と活動曲が変わっとるゆうねん」
JOO「そ、それに、もらった進行表には少女時代さんの名前ありまへんでしたよ」
ソニ「そんなアホな」
テヨン「(ぴーん)待てよ。ほんなら自分、ウチらが誰やと思うて挨拶に来た?」
JOO「えーと、この表やと…Kissing You先輩ですよね!」
少女時代「ハラホロヒレハレ(かくかく)」
JOO「おやぁ」
ジェシカ「タチの悪い真面目っ子やぁ。ウチ、すかーん」






※JOOのテレビデビューは2008年1月11日のKBS『ミュージックバンク』であるが、奇しくもこの日は『少女時代』での活動最終日となっており、
 少女時代は1集アルバムと同じ人形の衣装を着てパフォーマンスした。
 詳しくは本編第577話参照のこと。