第62話 スヨン軍曹のアメと無知

    


スヨン「全員起床ーーーー!」
ユナ「わぁ(ごろんごろん)」
テヨン「な、なにごとや?」
スヨン「さっさと起きろ! 起床時間はとっくに過ぎておるぞ」
テヨン「起床時間?」
スヨン「うむ。朝5時半が我が部隊の起床時間や」
テヨン「アホか。寝言は寝てる時にゆえや(ごろん)」
スヨン二度寝、許すまじ! 必殺布団剥ぎ!(ばっ)」
テヨン「わぁ、寒いがな」
ユナ「大体、我が部隊ってなんやねん? …わ、部屋の中が標語だらけになってる!」
テヨン「ん〜(ごしごし)。なんやら書いた紙が壁にベタベタと…。
  『今日も言うまい不平と不足』『まだまだ足りない辛抱努力』『己が勝たねば敵が勝つ』…なんじゃこりゃ?」
スヨン「過酷な芸能社会を生き抜き、勝ち上がるための心構えや。
  いつまでもワンダーガールズの後塵を拝してヘラヘラしておる自分らには愛想が尽きた。
  これからはウチの指導のもと、規律正しく練習に練習を重ねて、少女グループ一の地位を掴みとるんや!
  やる以上はてっぺん目指せ!(えいえいおー)」
がちゃ
ヒョヨン「ちょっとー、この部屋、さっきからうるさいで」
ソヒョン「朝の読書が出来へんのやけど」
スヨン「朝の読書など必要ない。直ちに洗顔、排泄、着替え、朝食の準備や。
  7時までに会社に行って稽古部屋を独占するんや」
ユリ「えー、ルナやキーたちがデビュー控えて一所懸命稽古してるんやから、譲ってやろうや」
スヨン「このペケ野郎!(ばしっ)」
ユリ「あっ」
ソヒョン「お、手を出した。ユリねえにだけは勝てると思ったらしいで(笑)」
ヒョヨン「アホやなー。寝てる間に仕返しされるのに(笑)」
スヨン「おのれが半人前のくせに、後輩に気ぃ使うとる場合か!
  まず誰にも世話にならない一人前の芸能人になれ。他人の世話はそれからや」
ソニ「どないしたん、急に?」
スヨン「よくぞ訊いてくれました。
  こないだチルヒョンにいさんの面会に行って気づいたんや。
  軍人さんたちはお国を守るために日々訓練されておられる。
  ウチらもそれくらい厳しくおのれを律しないとあかんとな」
ユナ「飯食うてばっかりやったくせに」
スヨン「食いながら眼と頭を働かせておったんじゃ。
  基地内至る所に貼られた標語と注意。軍人さんは片時も油断せんように、これらに囲まれておるんやなぁと。
  ♪こ〜の〜街は〜戦場〜やから〜」
テヨン「歌わんでええ、へたくそ」
ユナ「ははーん。それで部屋中に標語をベタベタと」
スヨン「午後にはリビングや各々の部屋にも貼ったるで」
ソヒョン「遠慮します」
スヨン「とにかく、こうしておっても時間の無駄や。もう全員起きたんやろうな」
ヒョヨン「シカがまだ爆睡中やけど」
スヨン「またかい。誰か奴を叩き起こしてくるように」
ソニ「はっ! イ兵長、直ちにシカ二兵を起こすであります(忠誠!)」
ユリ「わっ、もおスヨンに取り入ってる(驚)」
ティパニ「長いものにはすぐ巻かれやがる(呆)」
ユリ「長い? スヨンて権力持ってたっけ?」
ティパニ「権力はないけど、背は長いからな」
ユリ「(こけっ)くだらねえ」
 

がちゃ
ユナ「(そー、きょろきょろ)まだ誰もおらん」
ティパニ「やれやれ(ほっ)」
ヒョヨン「まったく。7時までに稽古部屋を占領するゆうて、いつまでも朝飯食うてるから、もう8時過ぎやで。
  自分でゆうたことくらい守れや」
スヨン「そやかて食事はあらゆる活動の源や。手抜きは出来ん。
  自分らが糧食を準備するのが遅いからあかんのや」
ヒョヨン「貴様がつまみ食いばっかりして、手伝わんからやろうが!(うきー)」
ユリ「まぁまぁ。せっかく稽古場に来たんや。新曲の練習やろうで」
スヨン「ではまず展示訓練から行う」
ユナ「点字訓練?」
スヨン「パフォーマンスの稽古じゃ、ボケ」
ソニ「了解です。貴様ら、まずは初動の状態に一線に並べ」
ジェシカ「すっかりスヨンの手下気取りやな(呆)」
スヨン「ちょっと待てや。練習の前に着替えんかい」
ユリ「はぁ? その眼は食い物しか映らんカエル眼か? ちゃんとジャージに着替えてるやんか」
スヨン「アホか。ウチらにとってステージ衣装こそ制服や。
  制服はアイドルの覚悟の証、誇りの象徴。
  なにより実戦と同じ服装でこそ、練習の精度は高まるんじゃ」
ソニ「(がーん)まさにおっしゃるとおり。目から鱗であります」
ティパン「マジか、自分ら?」
スヨン「マジや。自分もキリスト教徒なら聖書の言葉を疑ったらあかん」
テヨン「ほんじゃウチは無宗教やから疑ってもええんやな」
スヨン「屁理屈こねるな!(うきー)」

ソニ「軍曹殿、全員着替え終わったであります」
ソヒョン「練習で衣装着たら汗染みが出来るのになぁ(ぶつぶつ)」
スヨン「よし、先ほどイ兵長がゆうた通り、歌い出しの隊列で並ぶように。
  そもそもウチらはデビュー時から刃物(カル)群舞と呼ばれるほど、体を曲げる角度から指先まで完璧な刃物のように合わせるダンスが売り。
  『タシマンナンセゲ』での、定規で測ったような動作、大規模な移動は見る者の度肝を抜いたはず」
ソニ「その通りであります」
スヨン「それなのに『少女時代』になってからダンスの精度が著しく落ちた。
  中にはみんなと一緒に踊らず、ピョンピョン跳ねたり、クルクル回ったりする造反者まで出る始末」
ユリ「造反者て…(呆)、あれはあれで評判ええんやで」
テヨン「いやいや。ウチの一番の見せ所であんなアドリブぶっこまれたらかなわん。そこは前から気になってたとこや」
ジェシカ「(いやまったく)同感やで」
ユナ「あ、裏切り者」
スヨン「『Kissing You』ではそんな好き勝手は許さへんからな。『タマンセ』くらい全員が揃うまで徹底的に練習や」
ユナ「ちゅうても『タマンセ』の時は1年以上練習したからなぁ」
ヒョヨン「短時間でみんなウチの水準について来れるんやろうか?」
テヨン「偉そうなことゆう前に、歌の水準をもっとあげろ、ボケ」
ヒョヨン「なんやと、このチンチクリンめ(うきー)」
どったんばったん
ソニ「大変であります。歌唱科と舞踊科の間で揉め事です」
スヨン「貴様らイサカイはやめろ!(ばっ) どうもまだ事態を飲み込んでへんようやな。
  そんな頭の悪い貴様らにひとつ問題を出そう。
  1+1+1+1+1+1+1+1+1=いくつや?」
ユリ「えーっと(指折り)9かな?」
スヨン「違う。1+1+1+1+1+1+1+1+1=100や。
  9人の能力が合わされば100%の力が発揮出来る。これが少女時代式計算法や」
ジェシカ「おいおい、精神論で来たで(呆)」
スヨン「それでは100−1はいくつや?」
ユリ「99」
スヨン「ちっとは学べ!(ばちこーん!)」
ユリ「いたたた」
スヨン「少女時代は9人でひとつ。ひとりでも欠けたら、もう十全な機能は出来へんのじゃ
  少女時代式計算法では100−1=0。
  One For All,All For Oneの考え方でやっていただきたい!」
テヨン「現状で一番和を乱してるのは自分やけどな」
スヨン「なんやて!?」
テヨン「なんでもない、なんでもない(へらへら)」
スヨン「さぁ、判ったところで練習や。『Kissing You』は出だしから千住界隈のような動きが特徴。これで視聴者の気持ちをぐっと掴むんや」
ソヒョン「千手観音やろ? なんで千住界隈やねん」
ソニ「JRと東武線と千代田線が荒川の上で交差するかのような動きを表現するのや」
ヒョヨン「適当なことをゆうな!」
ティパニ「とにかくみんなウチの後ろに並べや。しっかりついて来いよ」
テヨン「一番前でヘラヘラしとるだけのくせに偉そうな」
ジェシカ「ホンマやで。大変なのは後ろのウチらやがな」
ユリ「あれ、なんか足りんと思うたら出道具持ってへんやんか」
ソニ「なにぃ? アメ係、アメちゃんは持って来たんか?」
ティパニ「誰がアメ係や! まぁ持って来たけれども」
ソニ「ではアメちゃんを配れや。ウチらにとってアメちゃんは兵隊さんの小銃と同じ。大事な相棒(バディ)や。
  舐めてもええくらいの気持ちで可愛がれよ」
ユナ「まぁ舐めてもええとは思うとるけど」
ティパニ「…あれ、ないで。ここにまとめて置いといたのに、ごっそり消えとる」
ソニ「マジか?」
スヨン「こらぁ! 大事なバディを見失うとは何事や!(ちゅぱちゅぱ)」
ティパニ「…ん?」
スヨン「そんなええ加減な気持ちやから、一度も地上波で一位になれへんのや!(ちゅぱちゅぱ)」
ジェシカ「じ、自分、なんでバディをちゅぱちゅぱしとるんや?(驚愕)」
ティパニ「今度の振り付けにはアメちゃんを使うて何度もゆうたやろ」
スヨン「それは聞いたけども…アメちゃん舐めながら踊るんかと思うてたわ」
ソヒョン「あーあ」
ユナ「アメちゃんて聞いた瞬間に、思考が食う方にシフトしたんやね」
テヨン「それは持ち道具じゃ、ボケ!」
スヨン「ぴゃー! ど、道理でひとり一個は少ないと思うたわ…はっはっは」
ソニ「貴様なんてことを! 戦場でバディを失くした奴は軍法会議や!」 ←手のひら返し
スヨン「ひえーっ」


ぎぃー
ジェジュン「おはよーございまーす…て、自分らもお来てたん?」
ジェシ「ん」
ユンホ「てか、全員で寝転んでなにしてる?」
ジェシカ「(ごろーん)全員やる気なくしたんで、練習やめておやつタイムにしたんよ」
ヒョヨン「稽古場、使いたいならどーぞ」
ジュンス「お、おおきに。ほな使わせて貰うわ」
ユチョン「てか、スヨンがおらんな? あの子はどうした?」
ソニ「スヨン二兵なら懲罰でお菓子を買いに行ってますわ」
テヨン「ウチら今、お菓子待ちしてるとこや(ゴロゴロー)」
チャンミン「へー、やっぱ余裕のあるとこは違うなぁ」
テヨン「余裕なんかないけど、アホに詰め込みすぎても無駄やってことがさっき判ったんや」
ジュンス「それはその通りやな。さすが少女時代や」
東方神起「わっはっはっは!」
少女時代「あっはっはっは!」
クッキーマン「笑い事ですむか、ぼけっ!」 ←陰で見ていた奴



 


※参考資料…『まるわかり自衛官』NEKO MOOK 2086(株式会社ネコ・パブリッシング)


※アメ…長い棒がついたいわゆるクルクルキャンディー。
 3番目の活動曲『Kissing You』の出道具であり、暗黒時代などひと時代を気づいた象徴的存在である。
 活動の最初期には実際のアメが用いられ、溶ける、砕ける、飛んでいくなど数々の騒動を巻き起こした。
 この辺、今後ネタとして書ければ書きたい。
 スヨンならひと口だろうが、実際に全部舐めるのは大変だと思われる。
 それを実践した記事があるので参考までにどうぞ。
 http://portal.nifty.com/2010/08/10/c/


※アメ係…ステージでは最前列のティファニーがアメを配ったり集めたりすることが多かった。
 といっても、実際にはその時々に手の空いてる子が手伝うと言う感じで、特にアメ係は決まっていなかったと思う。