第51話 First Win

ユナ「なぁなぁ、これ、この通りや(ぺっこり90度)」
イトゥク「いくら頭下げられても、知らんもんは知らん」
スヨン「嘘や。番組の司会者が今週の1位を知らん訳あらへん」
イトゥク「う…(ちくしょう、こいつだけは妙に業界慣れしてやがる)」
ユナ「頼むて。デビューして2ヶ月、もう8週間も『タマンセ』歌うとるのに、未だに1位になってへんねん。
  そろそろ1位にならんとウチの人生計画が、出だしから蹴躓くことになるんや」
ウニョク「人生計画?」
ユナ「そう。出す曲総てで1位になって、出るドラマ総てで視聴率がトップ。ほんで歌手と女優で新人賞2回とって、最終的にはグラミーとアカデミーをいただく」
シンドン「それは虫が良すぎるやろ。ノーベル賞フィールズ賞をいっぺんに貰うようなもんやで」
ユナ「そんな不可能事を可能にしてこそ伝説になるんや」
テヨン「そおやそおや。将来的にはYoutubeでのMVの視聴数世界記録を達成するんや。ざっと15億回ばかし世界中から観られるようになってやるで」
ウニョク「(けっ)K−PopのMVが15億回も見られる時代なんて一生来えへんわ」
ティパニ「そんで? 今週ウチらは1位になってんの、なってへんの?」
イトゥク「それを聞いたところで、結果にかわりはないがな。なんで事前に知りたがる?」
スヨン「心構えやがな。急に1位と言われて、動揺してる姿を見せたらみっともないやんか」
ソヒョン「そもそも、泣いてええのか笑ってええのか。咄嗟には決められんし」
ウニョク「笑えばいいと思うよ」
ソヒョン「(にひ)…って、綾波レイかっ! 初めての1位でへらへらしてたら不敬に思われるがな」
ウニョク「ほんなら泣けば?」
ソニ「9人も揃うてブラウン管の向こうでピーピー泣いてたら視聴者がひくわ」
ウニョク「(うきーっ)一体どおしたいねん、めんどいなぁ」
ユナ「それを決めたいから、今週1位になってるかどおか訊きに来たんやないか」
テヨン「一糸乱れぬパフォーマンスが売りの少女時代や。初の1位の時でも、全員揃ってお茶の間を感動さすリアクションをお見せしなければ」
ソニ「それには最低1時間は練習が必要なんや。そやから早く教えてぇな」
ジェシカ「なにも口に出して教えてくれんでもええんよ。ウチらが1位やったら首を縦に振る。そうやなかったら横に振る。たったそれだけでええから」
ユナ「そおそお。それやったら教えたことにならんやろ?」
シンドン「あかんゆうたらあかんのじゃ!(がおー) おとなしく楽屋で飯食ってろ!」
ユナ「ウチが将来にいさんのお嫁さんになるゆうても?(じー)」
イトゥク「う…、そんな条件あるんなら早うゆうてや。実は今週の1位候補は自分らとイ・スンギくんなんやが…」
ウニョク「ペラペラ喋るんじゃねえ!(スパーン)」
イトゥク「いててて。そやけど、ユナが嫁に来るて」
ウニョク「そいつは美人局の常習犯じゃねーか。騙されたらあかんて」
イトゥク「そ、そやったな(やばいやばい)」
シンドン「そんな訳で、さぁ帰った帰った(しっし)」
少女時代「けちーーー!」


ユナ「結局1位になったかどうかわからんかったな」
ティパニ「そやけど1位候補なのは確実なようやで。相手はおそらくイ・スンギにいさんの『優しい嘘』やな」
ヒョヨン「あんなぬるいバラードには負けん。こっちは2ヶ月もの間ハイキックし続け、パンツ見せまくってきた血と汗と涙の曲やで」
スヨン「そやけど2ヶ月もそうやってて、結局未だに1位とれてないで」
ソニ「実際、デビュー曲から1位とる歌手は滅多におらんからなぁ」
ユリ「そうやね。それにワンゴルが先月出した『Tell Me』がめっちゃ評判ええし、ウチらが1位とる前にワンゴルの新曲に抜けれてしまうんじゃ…」
テヨン「パボ野郎!(バチコーン)」
ユリ「あうっ!(ごろんごろん)」
テヨン「そんな弱気でどおする! なにがなんでも食物連鎖の頂点に立つゆう気概がなければ、この芸能界ゆうサバンナで生き残ることは出来んのじゃ」
ジェシカ「そんでどうする? とりあえず1位ってことでその練習しとく?」
ティパニ「それもええけど、やっぱホンマに1位かどうか判らんと、モチベーションに欠けるなぁ」
ソヒョン「うむ。それこそ笑ってええのか、泣いてええのか」
ソニ「笑えばいいと思うよ」
ソヒョン「(にひ)…って、それはもおええから!」
ヒョヨン「ほんなら、半分に分けようか?」
ユリ「ちゅうと?」
ヒョヨン「スヨンとかテヨンとか、べしゃり担当は笑顔を見せつつ所見を述べる。
  ウチら口べたなモンは涙を見せる、って感じで」
ジェシカ「なるほど。役割分担か」
ユリ「そお簡単に泣けるかなぁ」
ヒョヨン「大丈夫。こうやって(すっ)、感極まった様子で手で口元を覆えば…」
ソニ「おー、確かに。目を伏せると泣いてるような感じが」
ユリ「魔性の女や」
スヨン「男経験薄いのに、そんな技を磨いておったとは」
ヒョヨン「アホか、ウチはもてるっちゅうねん」
スヨン「よーし、ほんなら担当決めて練習するで。
  ”今週の1位は…ジャカジャカジャカ…少女時代です!”」
少女時代「ぴゃーーーーっ!」
スヨン「ぴゃーはあかん。もっと可愛く」
少女時代「ええっ?(ぱちくり)」
スヨン「そうそう」
ジェシカ「うう…(ウルウル)」
テヨン「(ニコニコ)ありがとうございます。全部、家族と事務所の先輩とファンの皆様のおかげです」
ユナ「ありがとございましたー!(ぺこぺこ)」
ティパニ「はい、CM入りマース!」
ヒョヨン「うむ、これはなんだかいけそうな」
スヨン「そうやな。よし、あと10回ばかり練習して、本番に臨もう」
少女時代「おおーー!」


イトゥク「うひゃー、歴史的にアホな連中やな」
ウニョク「なにがやねん?」
シンドン「女子の楽屋を覗き見なんて犯罪やど」
イトゥク「そやけど気になるやん。
  少女時代の連中、1位になったことを想定して、リアクションの練習を延々やってるで」
シンドン「わ、それは恥ずかしい」
ウニョク「そんなヒマあるなら『My Name』の練習しろよ」
シンドン「で、どうする? 今週の結果、教えてやるの?」
イトゥク「いや、おもろいからこのまま放っとこう(笑)」
ウニョク「悪いにいさんやで(笑) これは本番が楽しみや」
シンドン「うっひゃっひゃっひゃ」


…で


    


観客「きゃーーーー!」
ユナ「はぁはぁ」
ヒョヨン「どーじゃい、これが少女時代の実力や!」
ユリ「恐れ入ったか!」
ソニ「そやけど、イ・スンギにいさんの表情、なんか余裕やな」
ティパニ「そやな。MCにいさんらの様子も普段と変わらないし」
スヨン「や、やっぱり、今回も1位ちゃうのかも(涙)」
ジェシカ「弱気になるな。あんなに練習したやないか」
テヨン「受賞の練習したから1位になれるって訳でもないけどな」
ウニョク「少女時代の皆さん、ありがとうございました」
イトゥク「さぁMカウントダウン、10月第2週の1位曲の発表です」
ぺろろん
ウニョク「少女時代です」
少女時代「…は?」
イトゥク「おめでとうございます。こちらへどうぞ」
少女時代「え、えーっと(ぽかーん)」
ジェシカ「ちょっと、ウチらが1位やってよ」
ソニ「それにしちゃあ、えらいあっさり」
ユナ「ホンマや。初の1位ゆうのに、なんやねん、この演出のなさは」
ソヒョン「実感がない。まさに実感がない」
イトゥク「夏にデビューして以来、初めての1位ですね。まずご感想を」
ユリ「か、感想…(おろおろ)」
スヨン「とりあえず、練習した通りや。泣く係は泣いて。テヨン、所感を」
ティパニ「泣けるか、こんな雑な発表で」
テヨン「えーと、ありがとうございました。
  スマン先生を始め、スタッフのおにいさんおねえさん、事務所の皆さん、おとんおかん、おにい、ハヨン、ワタル先生、全州の子分ども、みんなのおかげです。感謝します」
スヨン「なにゆうとるんや。もっと決めたとおりに挨拶せえや。それにウチらは笑顔担当やで」
テヨン「そやから笑顔で所感述べたやないか」
スヨン「アホ言いなや。半分泣いとるくせに」
テヨン「妙な言いがかりつけんといて。ウチらが1位になるのは当たり前。
  こんなケーブルビジョンの安い音楽番組で1位になったからって泣く訳あらへん(すん)」
スヨン「ほら」
テヨン「こ、これは涎や。自分こそ大泣きしてるやないか」
スヨン「うそーん(ひーん)」
ウニョク「おおっと、少女時代の全員が泣いております。やっぱり初の1位ですから、感慨も深いでしょう」
ユナ「泣いてねえって(ズルズル)」
ティパニ「こんなんで泣いたらウチらの沽券に関わるわい(ぐすんぐすん)」
ユリ「もっとロマンティックな1位が良かったのに(はらはら)」
ヒョヨン「役割分担したから、ウチらは泣いてええんちゃう?」
ジェシカ「そ、そおか。そんなら仕方ない。ちょっと泣こう(わーん)」
イトゥク「素直やないなぁ(笑)。そやけど初めての1位なんて、後にも先にもこれがただ一度の経験や。せいぜいその味を噛み締めるがええ」
ウニョク「うんうん。いずれ泣く気も起きんほど毎週1位になる日が来るで」
イトゥク「今は少女時代! これからも少女時代! 永遠に少女時代! おめでとう、少女時代!」
テヨン「なにがおめでとうや! これからは1位の時はちゃんと教えろよ!(えーん)」





※2007年10月11日、Mnetの『M!カウントダウン』において、少女時代のデビュー曲『다시 만난 세계』が1位を獲得した。
 少女時代の音楽番組における初めての1位である。
 このときの『M!カウントダウン』はスーパージュニアのイトゥク、ウニョク(後の魚雷兄さん)、シンドンが務めていた。


    


 『다시 만난 세계』は地上派音楽番組では1位になっていないので、少女時代の初1位は『少女時代』と思われがちだが、実際にはこのケーブルビジョンでの1位がある。
 この日は彼女らのスペシャルステージで、『다시 만난 세계』の他にBoAの『Girls On Top』『My Name』と3曲を披露した。
 後の2曲は生だったらしく、その衣装で1位表彰を受けている。
 とにかくこの頃は少女時代の優れた資質をお見せしようという意図が強く、いわゆる”かっこいい系”で、清純なイメージに転向するのは次曲からである。


※「将来お嫁さんになる」…イトゥクは練習生時代から7年間もユナに「ワシの嫁になれ」と言っていたそうである。
 2009年10月27日放送のSBS『強心臓』でユナが暴露したが、イトゥクはむしろ堂々と「ユナがタイプやねん」と言い切った。
 今ならパワハラで問題になるが、この場の雰囲気はむしろ「なんて仲の良い。まるで兄妹のよう」と言う雰囲気だった。ええ時代や。
 ちなみにこのときのMCはイ・スンギだった(やはり理想のタイプにユナを挙げている)。


※おまけ…
     イ・スンギ『優しい嘘』