第45話 納涼の匣

ジェシカ「暑い…(ぐったり)クーラーつけてもええ?」
ヒョヨン「電気代、自分が払うんなら」
ジェシカ「なんだよぉ、ケチ」
×   ×   ×
ヒョヨン「…(だらだらだら)」
ジェシカ「…(だらだらだらだら)」 ←意外にシカは汗っかきで暑いのが苦手
×   ×   ×
ジェシカ「…あかん。もおウチが電気代払うから、思い切ってクーラーつけるで」
ヒョヨン「やたっ!」
ジェシカ「そやけど、冷気はウチのモンや。自分はクーラーにあたったらあかん。外に出とき」
ヒョヨン「なにゆうてるんや、ここはふたりの部屋やで。当然ウチもここにおる権利があるわ」
ジェシカ「じゃあ、やっぱりクーラーつけるのやめる」
ヒョヨン「なんやねん(がっくり)。ケチはそっちやないか」


ジェシカ「…暑いなぁ」
ヒョヨン「うん」
ジェシカ「クーラーつけよか?」
ヒョヨン「ええけど、電気代は自分が払えよ」
ジェシカ「ケチやな…ほんならやめるわ」
ヒョヨン「どーぞ、ご勝手に」


ジェシカ「…それにしても暑いなぁ。クーラーつけよか?」
ヒョヨン「ええけど電気代は…」
テヨン「やかましいっ!(スカターン!) さっきから暑苦しい会話を繰り返すんじゃねえ!」
ジェシカ「だって暑いんだもん」
テヨン「聞いてるこっちが暑うなるわ」
ヒョヨン「ほんなら自分が電気代出してクーラーつけてくれや。すぐ黙ったるわ」
テヨン「アホか。初めてのギャラが入って来るのはまだだいぶ先。むしろデビューに伴う物いりで貧乏してるのはみんな同じや」
ジェシカ「そんでも仕送りがある分ウチらよりましやろう」
ヒョヨン「そーだそーだ」
ジェシカ「(すがり)なぁ、せめて冷たいモンでも飲ませてくれよぉ」
テヨン「知るか。水でも飲んでな」
ジェシカ「水道水なんか飲んでお腹こわしたらどうする気ぃや? アイドルやねんで」
テヨン「いつも田んぼの水かて平気で飲んでるやないか」
ヒョヨン「実はそうやけど、田んぼの水はもお飽きたんや。なんか冷たくて甘くてスッキリするもんが欲しいんや(じたばた)」
ジェシカ「そやそや。そんなんでもないとモチベーションが上がらへんわい(ごねごね)」
ユナ「(ててて)おねえら、喉渇いてんの? ほな冷え冷えのサイダーあげよっか?」
ジェシカ/ヒョヨン「(がばっ)ホ、ホンマかっ!?」
ユナ「うん、これ(さっ)」
ジェシカ「わー、松サイダーやぁ(歓)」
ユナ「冷やし料金も入れて、一本1200ウォンな」
ジェシカ「金とるんかよ(ガク)」
ヒョヨン「高いなぁ」
ユナ「いやならええんやで(ふふん)」
ヒョヨン「ど、どうする? 一本買ってふたりで分けるか?」
ジェシカ「うーむ、悔しいが、この喉の渇きには逆らえん。そうしよう」
ヒョヨン「決まりや。ほな、そうゆう訳で1200ウォン貸してや」
テヨン「なんでじゃ、ボケッ!」
ポンピーン!
声「あんにょんはせよ〜、お荷物をお届けに参りました〜」
ヒョヨン「おおっ? なんじゃ、誰じゃ? 食いモンでも届いたか」
テヨン「ぬか喜びすんなって。誰かの仕送りやろう」
ジェシカ「この際もう誰の仕送りでもかまわへん。この宿所に送られた荷物はウチらの共同物。平等に分けるまでじゃ」
ユナ「わー、犯罪者やー」


ヒョヨン「(でででで)はいはいはいはい、お待たせしました! 荷物ですか?」
配達人「へえ。キム・ヒョヨンさんゆう方に」
ヒョヨン「(ぴゃーっ)ま、まさか。キ、キム・ヒョヨンはウチですウチです(ぶるぶる)」
配達人「それではこちらにサインを…。へぇ、おおきに」
バタン
ヒョヨン「うひゃー、おとんからや。信じられん」
ジェシカ「わ、ホンマや。慶北北部第2矯導所て書いてある」
テヨン「すげぇな。貧乏も極めると矯導所から仕送りされるようになるんやな」
ジェシカ「ある意味矯導所以下の生活レベルやから」
ヒョヨン「それにしてもごっつい木の箱で送ってきたなぁ。あ…手紙がついとる」
ジェシカ「なんてなんて?(ぐいぐい)」
テヨン「他人の荷物なのにえらい食いつくなぁ(呆)」
ヒョヨン「えーと…ヒョスや、デビューおめでとう。事情があって直接祝うことは出来んけど、せめてもの気持ちを送ります。これで暑い夏を涼しく乗り切ってください」
ユナ「矯導所の中からいったい何を送ってきたんやろ?」
テヨン「おとんが叩き殺した看守の首とかとちゃうか?」
ジェシカ「(ぴゃー)それは涼しくなるなぁ」
ヒョヨン「アホか。おとんは凶悪犯やない、冤罪や。あの日乗り合わせた女性専用電車が悪かったんや」
ユナ「へ? 痴漢で冤罪やったん?」
テヨン「それで慶北北部第2矯導所送りて、どんな裁判やったんや?」
ジェシカ「とにかく開けてみよう、開けてみよう」
ヒョヨン「自分そればっかりやな。ウチのおとんにもちっとは興味持てよ」
ごとごと…
ヒョヨン「うわ、えらい頑丈に蓋してある。いったい何が…(ぱかん)」
ジェシカ「わー、開いたぁ! 中身なに?」
ヒョヨン「なんやろ、一面真っ白な…ああ、こ、これは!?」
ユナ「ぴゃー、なんじゃこりゃ?」
テヨン「(がーん)まさか」
ジェシカ「これはどうみても麦やな」
ヒョヨン「それも大麦。ビールでも作れっちゅうんかい!?」
ユナ「きっと麦は緩衝材代わりで、奥に何か入っているんじゃ」
ヒョヨン「そうかなぁ…(ごそごそ)いんや、麦しかないで」
ジェシカ「ひょっとしたらこの麦、矯導所の畑で出来たモンやないか? これがおとんに出来る精一杯の仕送りやったのかも」
ヒョヨン「だからって、麦だけ貰うてどおせえゆうねん」
テヨン「手紙には他になにか書いてないん?」
ヒョヨン「えーと…ああ、あった。…”炙れ”やて」
テヨン「炙れ?」
ヒョヨン「うん。そのひと言だけ」
ジェシカ「この麦を炙るとなにか涼しくなったりするんやろうか?」
ユナ「んな訳はないやろう」
ジェシカ「やってみなくちゃ判らんで。ヒョヨンのおとんが獄中でなにか錬金術的な才能に目覚めたかもしれんからな。ひとすくい鍋に取って、ソヒョンの火炎放射器で炙ってみよう」
ユナ「お、いつになく積極的やな」
テヨン「腹が減って、麦でもなんでもええから口に入れたいんやろう」
ばたばたばた
ジェシカ「道具、押収してきたでぇ」
ヒョヨン「はやっ」
ジェシカ「ふふふ、大麦を炙ればどうなるものか。危ぶむなかれ。危ぶめばメシはなし」
ユナ「なにゆうてるんや」
ジェシカ「それ、唸れ、科学絶滅砲!」
(ボッ)ドシューッ! メラメラメラーッ
ユナ「わーっ、台所が火の海に!」
ジェシカ「慌てるな、軽くフランベしたようなもんや」
ヒョヨン「そやけど天井焦げてるで」
テヨン「スプリンクラーのある立派なマンションやなくてよかったな」
ジェシカ「しかたない。科学絶滅砲、作動停止(カチ)」
ユナ「たかが麦炙るのにいちいち大げさすぎるねん」
ヒョヨン「で、麦はどうなった?」
ジェシカ「えーと(覗き)…おおっ、遺跡の跡から発掘される古代の穀物のようになってる。あまりの熱に時空を超えたか?」
テヨン「炭化してもうただけや、ボケ(げしっ)」
ヒョヨン「なんちゅうことしてくれるねん。これじゃ食われへんやないか」
ジェシカ「おかしいなぁ。ヒョヨンのおとんのゆうた通りにしたのに」
ユナ「やりすぎやって」
ヒョヨンとにかくこの方法は間違いやってことがわかった」
ジェシカ「そう? 火加減の問題やない?」
テヨン「ねばるなぁ」
ユナ「そうまでしてこの麦食いたいのか?」
ヒョヨン「とにかく茶碗一杯分この麦やるから、炊いて食えや」
ジェシカ「わーい、晩飯代が浮いた。さすがヒョヨン、生まれたときからの親友やね(ぴょんぴょん)」
ヒョヨン「適当なことゆうな、自分アメリカ生まれやないか」
ユナ「大麦ごときで舞い上がりすぎや」


ナレーション:が、このジェシカの行為が思わぬ発見を生むのであった。


ジェシカ「(どたどた)大変やーっ!」
ヒョヨン「なんやなんや、騒々しい」
ジェシカ「麦が増えた」
ユナ「はぁ? 細胞分裂でもしたゆうんかい?」
テヨン「んなあほな」
ジェシカ「とにかく、これ見て(ぱかっ)」
ヒョヨン「わっ、これは…」
テヨン「どう見てもババ(うえー)」
ジェシカ「焦げた麦に水をかけてしばらく放っておいたんや。そしたら膨らんでこうなった」
テヨン「つまり、大麦+炎+水=排泄物ってことですか?」
ジェシカ「排泄物ちゃうやろ。結構ええ匂いするんやで(ほれ)」
テヨン「うわ、やめろよ。そんなもん近づけんな(しっしっ)」
ユナ「そやけど、確かに嫌な臭いやないなぁ」
ジェシカ「そやろ? ちょっと舐めてみよか」
テヨン「うひゃー、アイドルのくせにババ舐める気か?」
ユナ「アイドル大国日本ですらスカドルはまだおらんのに」
ヒョヨン「同じ貧乏でも、ウチにはここまでは出来んわ。ある意味尊敬」
ジェシカ「ババ思うからや。そばがき思えば舐めれるて。…(ぺろ)」
テヨン「(げぇっ)ホンマに舐めやがった」
ヒョヨン「ミョンスのおっさんが知ったらクビ吊るな」
ジェシカ「(ぺろぺろ)…ん? なんか、不味くはない」
ユナ「うそ?」
ジェシカ「むしろ香ばしくて美味いかも」
テヨン「ありえへんわー」
ジェシカ「ちょっと砂糖を足してみよう。砂糖は共有の財産やからウチが使うても文句ないやろ?」
ヒョヨン「そ、それに関しては文句はないけど」
テヨン「良識は疑う。ババに砂糖を入れるなんて」
ジェシカ「(ねりねりねーるね)よし、炙り大麦バージョン2、完成」
テヨン「おえっ」
ジェシカ「踏み出せばその一足がメシとなり、その一足がメシとなる。迷わず食えよ。食えばわかるさ。さっそく試食(ぱくっ)」
ヒョヨン「ぴゃ、迷わずいきやがった」
ジェシカ「(もんぎゅもんぎゅ)…! こ、これは!?」
ユナ「どないした? やめとったがよかった?」
ジェシカ「美味! ありがとーっ!(ダーッ)」
テヨン「うそやん(呆)」
ジェシカ「ホンマやって。お菓子、お菓子」
テヨン「ババ、ババ」
ジェシカ「ちょっときな粉っぽくて女の子の好きな味です」
テヨン「女の子はババなんか好きじゃありまへん」
ジェシカ「ええ加減ババゆう観念は捨てろ!」
ヒョヨン「でも、その物体が食えたとして、おとんがゆうとった”これで夏を涼しく乗り切れ”ってどうゆうことやろ?」
ユナ「おねえ、舐めてて涼しくなったか?」
ジェシカ「うんにゃ、涼感はまったくありまへんな」
ヒョヨン「ほんなら使用法が違うんやないのか?」
ジェシカ「これにミントでも入れてみる?」
テヨン「それやったら最初からミントも同封されてるんやないのか?
  大麦しかなかったんやから、それだけで涼しくなれっちゅうことやろ」
ジェシカ「う〜む、そやね」
テヨン「ちぇ、貧乏なアイドルがババを食うのを見せられただけの無駄な午後やった」
ジェシカ「えらい言われようやな、おい」


ナレーション:しかし、ジェシカの焦がし麦への執念が、さらなる飛躍を生む。


ユリ「♪くでん あなよ うり ちょうん まんなんなる(ふんふん)」
ぽいぽい、ズゴゴゴゴ
ジェシカ「おはよう。なにやってるん?」
ユリ「なにて、毎朝の日課の山芋ジュース作りやがな」
ジェシカ「へー、自分毎朝こんなことやってたん?」
ユリ「一緒に暮らし始めてひと月はたつゆうのに、今頃なにゆうてるん。朝いつまでも寝こけてるからや」
ジェシカ「まぁまぁ。で、その山芋ジュースって美味いの?」
ユリ「美味いで。何より簡単で身体にええ。こうやって山芋、蜂蜜、リンゴ、牛乳をミキサーに放り込んで(ぽいぽい)スイッチを入れるだけ(ズゴゴゴゴ)」
ジェシカ「へー。そんなことで山芋が美味いジュースに変わるもんなん?
  …! 待てよ、例の焦がし麦を粉末にしてミキサーで牛乳と混ぜたら美味いんちゃうか?」
ユリ「焦がし麦? そんなん飲めるの?」
ジェシカ「山芋だって飲めるんやから、麦くらいどってことないやろ。ちょっと待ってな、今材料持ってくるさかい」
どたどたどた
ジェシカ「科学絶滅砲、発射!」
ドコーン! メラメラメラーーーーーッ!
ユリ「わー、天井燃えてるって」
ジェシカ「大丈夫、この上の階はちょうど風呂になってるから」
ユリ「そんな問題か?」
ジェシカ「よし、焦がし麦完成。これをミキサーで粉末にして(ガガガガ)、さらに牛乳、蜂蜜などを入れて混ぜる(ズゴゴゴゴゴ)
ユリ「うひゃー、なんとも食欲のわかない色の液体が…」
テヨン「(のそのそ)うるさいなぁ、朝っぱらからなんの騒ぎや」
ジェシカ「ふぇふぇふぇふぇ、ええところに来た。ジェシカ様特製焦がし麦バージョン3が完成したで(どろどろ)」
テヨン「焦がし麦て…まだやってたんかい」
ヒョヨン「無料の食材にかける恐るべき執念やな」
ジェシカ「まぁ飲んでみぃ(ずいっ)」
テヨン「この泥水をか?」
ジェシカ「コーヒー牛乳かてこんな色やろ。先入観を捨てろ」
ヒョヨン「ユリが飲んでみれば? 普段から訳のわからんもの飲み慣れてるやろ」
ユリ「山芋ジュースは訳のわからんもんちゃう。でもまぁ、見かけはともかく、製造過程を見た限りじゃ変なモンは入ってなかったし、飲んでみようかな」
ジェシカ「えらい!」
ヒョヨン「人類で初めてナマコを食った奴クラスの勇気や」
ユリ「そんなに?」
ジェシカ「まぁグッとあけて、グッと」
ユリ「そんじゃまあ(おそるおそる)…ぴゃーーーーっ!」
テヨン「ど、どうした!?」
ヒョヨン「不味いか? 毒か? 死にそうか?」 
ユリ「美味い!」
テヨン/ヒョヨン/ユナ「(ずこっ)美味いんかい!?」
ジェシカ「ほーらみろ。焦がし麦は美味いんやって」
ユリ「なんとも爽やかで、これに氷でも浮かべれば夏の飲み物にピッタリ」
テヨン「うそーん」
ユリ「ミキサー愛好家のこのクォン・ユリ、大いに気に入りましたで。これから夏場は毎日飲もうと思います」
ヒョヨン「…! するとおとんが書いてきた”夏を涼しく”とは…」
ジェシカ「そうやで。こうやって飲料として使用しろゆうことや」
ユナ「そんならそうとちゃんと書いとってくれたらええのに」
ヒョヨン「そやなぁ。でもこの手紙には”炙れ”としか(がさがさ)…ああっ!」
ユリ「今度はなに?」
ヒョヨン「手紙に文字が増えてる」
テヨン「そんなアホな…(覗き)げ、ホンマや。なんで?」
ユリ「これは炙り出し…。ジェシカの科学絶滅砲の熱気で文字が浮かび上がったんやな」
テヨン「”炙れ”って、麦やなしに手紙を炙れってことやったんか」
ユナ「面倒なことしやがって」
ヒョヨン「そおゆうたら、ウチのおとん、ミステリーマニアやったわ」
ユナ「なにがミステリーマニアや。なぞなぞレベルのトリック使いやがって。で、手紙にはなんて?」
ヒョヨン「それが、今更なんやけど、大麦を使った清涼飲料水のレシピがこと細かに…」
ジェシカ「なんや、そんなモンあるなら、ウチがわざわざ壮大な化学実験せんでもよかったのに」
ヒョヨン「そやけど、書いてることはシカが偶然発見したのと大体同じやで」
ジェシカ「ふーむ、まったく予備知識のない状況から、美味しい清涼水を作り上げてしまったか。昨夜『エリーのアトリエ』プレイしててよかった」
ユナ「ゲームの知識かよ!」
ヒョヨン「とにかくせっかくおとんが送ってくれたんや。これからはちゃんとレシピ通りに作ってみんなで飲もうで」
ジェシカ「そうしよう、そうしよう」
ユリ「わーい」
テヨン「仕方ない、見かけはアレやが、そんなに美味いならウチも飲んでやろう」
ヒョヨン「一杯100ウォン」
テヨン「(がくっ)有料かよ」


ナレーション:こうして焦がし麦で作った謎のジュースで、少女時代はデビューの夏を乗り切った。
  彼らが市販されている『ミシッカル』と言う商品に気付くのは、次の夏になってからであった。







※おまけ…
    
    毎度そうだが榎本明のポイントを外しまくった演技には笑うしかない。


※松サイダー…松葉を使ったサイダーで、写真はロッテの”松の芽”と言う商品。
    
 松葉の清涼感と殺菌作用に目を付けた松葉サイダーは日本にも以前からあり、趣味で手作りする人もいるらしい。


※「アイドル大国日本ですらスカドルはまだおらんのに」…いたらすいません(土下座)。