第18話 氷姫と海の王子様 第3章

ジェシカ「お疲れ様でしたー。…はぁ、今日も清く正しい勤労少女の一日は無事終わった。
  ヒールに痛めつけられた足は痛むけど、バス代節約して歩いて帰ろう」
ぷっぷー
ジェシカ「あっ」
キキーッ
ミョンス「今バイト終わったんか? 送って行くで」
ジェシカ「オッパーッ!(喜) 仕事疲れてるのに、わざわざ迎えに来んでもええのに」
ミョンス「なんや、嬉しゅうないんか?」
ジェシカ「嬉しいよ。(バタン)えへへ、送って貰えることより、今日もオッパに逢えたことが嬉しいねん」
ミョンス「(照)や、やめろや、大人をからかうんやない」
ジェシカ「別にからこうてない。ホントにそう思うてるもん」
ぶぅー
♪また浜辺に戻って来たで なんでか彼女も来とるけど
 あちこち見渡しても 砕ける波音だけ
ジェシカ「♪無愛想な人 アイスクリームおじさん…(るんるん)」
ミョンス「…(いっつもツンツンしとる奴かと思うたら、食中毒事件以来ずっと機嫌がええ。これがこの娘の地なんやろか?
  オッパやて…? ぴゃー、恥ずかしい。
  そやけどあのプリクラ写真、キキキキス、キス写真…わからん。ワシ、騙されてるんかなぁ)」
ジェシカ「どないしたん? 妙に難しい顔して」
ミョンス「いや、その…」
ジェシカ「…?」
ミョンス「そや、後部座席に包みがあるやろ。開けてみぃ」
ジェシカ「え、なに?(がさがさ)あ、スリッパやん。可愛い」
ミョンス「”ザ・シューズ”で買うた安物やけどな。このクルマに乗っとる間は、ヒール脱いでスリッパに履き替えたらええ。足もたまには労わらんとケツ捲くるで」
ジェシカ「びっくりした。優しいんやね…若ハゲのくせに」
ミョンス「ここだけの話やが、実は頭髪を優しさとトレードしたのさ」
ジェシカ「あははは、ステキ。(履き)どお、似合う」
にゅ
ミョンス「わ、足を突き出すな。(またピンク色のもんが)見えてるし」
ジェシカ「今日は大サービスや。ほら」
ミョンス「やめれ、恥ずかしいがな」
ジェシカ「えへへへへ」

ミョンス「(さりげなく)なぁ、自分、ワシのこと好きか?」
ジェシカ「うん」
キキキーッ
ジェシカ「危ない! ちゃんと前見て運転してや」
ミョンス「わぁびっくりした。(あっさり認めちゃったよ。やべえ、ええ歳こいてドキドキして来た)」
ジェシカ「オッパはなんかおとんみたいで楽やねん。稽古場の先輩みたいにギラギラしてへんし」
ミョンス「おとんと一緒にするとは光栄…、いや失礼な。ワシかて男やで。もしワシが自分に邪な気持ちを持ってたらどないするつもりや?」
ジェシカ「オッパが? …うふふ」
ミョンス「うふふ? うふふてなんやねん?(うわー、ワシおかしくなりそう)」
ジェシカ「よおわからんけど、でもオッパに似合うのは、ウチよりもっと頭が良くて上品な、大人の女(ひと)やと思う。そやから、そんなこと考えても無駄や」
ミョンス「ふ、ふーん(ずるい)」
ジェシカ「わぁ、盤浦大橋、キレイ…(でも、もしそうなったら? …ひゃー、そん時考えようっと)」


ヒョヨン「おはよーございまーす」
ソヨン「おはよーございまーす。今日もよろしくお願いしまーす」
ジェソク「おはようさん。自分ら最近よお勉強に来るなぁ」
ユナ「そうでしょ? ウチの読みじゃ、もおデビューが間近なんやと思います」
ソヨン「でも事務所は具体的なことなんにも教えてくれないんですよ」
ヒョヨン「多分メンバーを絞りきれてないからやないかなぁ」
ジェソク「へえ。練習生も大変やねえ」
ミョンス「ホンマやね(きょろきょろ)」
ソルリ「シカねえさんなら、今日は来てまへんよ」
ミョンス「(どきっ)え、シ、シカって? 練習生? どんな娘やったっけ?」
ソルリ「いっつもツンとして性悪そうな、あごの張った、歯並びの悪い、ツギ当てた貧乏くさい服を着てる、プライドだけは根拠なく高そうな女子高生ですよ」
ミョンス「あ、ああ、いたねえ(ハハ)」
ソルリ「(見え見えやん。大人ってめんどくさいなぁ)おねえ、今夜はデートやてゆうてましたで」
ミョンス「デートォ?」


ぷらぷら、ぷらぷら
ジェジュン「なかなか美味しかったね、今の日本料理屋」
ジェシカ「そやね(どうせなら洋食の方がよかったけどな)。ああ、もおこんな時間か。ほなにいさん、ウチ帰りますわ。ご馳走さまでした」
ジェジュン「えー? 夜はこれからやないの。クラブ行こうよ」
ジェシカ「クラブかぁ…(そおゆうたら最近稽古ばっかでクラブとか行ってへんなぁ。どおしようかなぁ)」
ジェジュン「つきおうてくれたら、今度原宿でなんか可愛いもん買うて来たるよ」
ジェシカ「なんかて?」
ジェジュン「そらバッグでも服でも、姫の好きなものを」
ジェシカ「うーん…だったらクラブ行こうかなぁ」
ミョンス「(ぬっ)こら!」
ジェシカ「あっ」
ジェジュン「わ、ミョ、ミョンスさん」
ミョンス「援交女子高生か? 物に釣られてるんやない」
ジェシカ「オッパ、なんでこんなところに?」
ジェジュン「オッパ?」
ジェシカ「あ…、う、うるさいな、おっちゃん。ウチの勝手やんか」
ミョンス「勝手て…。そうゆうことゆう?(まぁゆわれてみればそうやけど。ちゅうか、ワシ夢中で来ちゃったけど、別にこの娘の彼氏やないもんなぁ。ああ、かっこわる)」
ジェシカ「それは、だって…」
ジェジュン「そうですよ。これはワシらの問題です。いくらミョンスさんでも、プライベートに口出しされるのは…」
ミョンス「…(じー)」
ジェシカ「…(うつむき)」
ミョンス「(ふん)まぁ、言われてみればそうやったな。ワシがとやかくゆうことちゃうか」
ジェシカ「え?」
ミョンス「(でもなんかむかつくなぁ。このまま黙って帰れへんわ)
  稽古とバイトの繰り返しで息も詰まるやろうし、たまにはかっこええ先輩と息抜きするんも大事やもんな。
  禿げた中年とおるよりよっぽど健全や。だいたい禿げた中年はスリッパしか買うてくれへんからな」
ジェシカ「オッパ…(なんやねん、そのイヤミな台詞は)」
ミョンス「まぁあんまり高いもんねだって困らすなや。ほなせこい年寄りはもどるわ」
ジェジュン「はあ」
ミョンス「バイバイキーン(むかむか)」
ジェシカ「ふん(むかむか)」
ジェジュン「あー、びっくりした。そやけど自分、ミョンスさんと知り合いやったんか?」
ジェシカ「知らんがな、あんな禿げ親父」
ジェジュン「そお? まぁええわ。とにかくクラブ行こうや、な、な」
ジェシカ「…やめとく」
ジェジュン「は?」
ジェシカ「ウチは物に釣られて、誰にでもホイホイ着いて行く女と思われたないねん(実際そうやけど)」
ジェジュン「なに訳のわからんことゆうてるの」
ジェシカ「ジェジュンにいさん、今夜はご馳走様。ウチはこれで帰ります」
ジェジュン「マジで? ほな送っていくわ」
ジェシカ「No Thank You! 走って帰るさかい、お気遣い無用」
ジェジュン「走るて、自分の家、トトロの山の中やないか」
ジェシカ「ウチはこれから稽古の虫。今日サボった分体を鍛えないと。チャラチャラしてへんと、立派なアイドルを目指すんや! ほな!」
ドヒューン!
ジェジュン「ぴゃー、ロードランナーみたいな勢いで帰って行きよったで。しゃあない。クラブにはステラでも呼び出して行くか」
ジェシカ「はぁはぁ(オッパとおると、いつもの自分やのうなる気がして、苦しい。他の人なら遊んでる所見られても全然平気やのに。
  それに、軽蔑されたままなのはいやや。
  いっぱいいっぱい頑張って、オッパが応援したくなるような、”ザ・シューズ”のスリッパが似合う女になりたい!)」


ぷっぷー…ぷっぷー
店長「(がちゃ)なんやの、うるさいわね」
ミョンス「あれ、シカは?」
店長「シカって?」
ミョンス「ほら、いっつもツンとして性悪そうな、あごの張った、歯並びの悪い、プライドだけは根拠なく高そうな女の子や」
店長「ああ、ヨーコちゃん? あの娘なら先週やめたわよ」
ミョンス「ヨーコゆうんか(絶対韓国人の源氏名は名乗らないんやな)。…やめた?」
店長「そーなのよ。うちの店で一番売れてたのに、急に”お金より大切なことがある”ゆうて」
ミョンス「お金より大切な…?」
店長「そんなん男しか考えられないわよねえ。まさかあんたがたぶらかしたんやないでしょうね」
ミョンス「ア、アホゆえ」
店長「そうよねえ。あの娘があんたみたいな若ハゲに引っかかるとは思えないもんねえ」
ミョンス「失礼な奴やな」
店長「ふん。ところで、あんた、あの娘のなんなのさ?」


スマン「ほな始めよか」
仲宗根「はい。では第1次選考を始めます。最初の組、前に出て」
スーパーガールズ「はーい(ドキドキ)」
仲宗根「ちょっと、ジェシカ。あんたスリッパやないの? ハイヒールはどないしたん?」
ジェシカ「もおずいぶん履きっぱなしやったから、おとといヒールが折れてもうて。すんまへん、今日はこれでお願いします」
スマン「あかん。衣装の管理も能力の内やで。試験受ける資格がないわ」
ジェシカ「お願いします。このスリッパしか履くものがないんです」
スマン「プロの世界では言い訳は一切通用せん。列を出なさい」
仲宗根「先生、この子の家は特別貧乏やから…」
ジェシカ「どうかお願いします(土下座)。このスリッパでプロになりたいんです」
スマン「あかんて。ハイヒールいることわかっとったら、いつもの手練手管で先輩男子に買って貰えばよかったんや。どんな手段使うてでも目的を達成するのもまたプロや」
ジェシカ「先生…?」
スマン「ワシが自分の素行を知らんとでも思うたら大間違いやで。なかなか図太い子やと思うとったが、最後の最後で詰めを間違えたな。ジェシカ・ジョン、失格」
ジェシカ「がーん!」
スーパーガールズ「ぴゃー」


ミョンス「落ちた? 選考に?」
ソルリ「シカねえさんは練習期間も一番長いし、ここしばらくバイトもやめて稽古してはったから、みんな大鉄板やと思うてたんです。それがまさか衣装不備で失格なんて。
  なに考えてヒョウ柄のスリッパなんか履いて来たんだか」
ミョンス「おいおい(あいつには常識ゆうもんがないんか?)」
ソルリ「さすがに梨乃先生が食い下がってくださって、来週再選考を受けることが出来るようになったんですけど、またスリッパやったら結局同じことやし(はぁー)」
ミョンス「ホンマ、アホな娘やなぁ」
ソルリ「ちょっと、ねえさんの危機なのに、なんでニヤニヤしてるんです?」
ミョンス「え?」


きききーっ
ミョンス「危ねー、タヌキ轢きそうになったわ。(ごそごそ)何度来てもえらいところに住んでるよなぁ」
バタン…そろそろ
ミョンス「入り口に置いておけばわかるやろう。あ、でも、野良犬が咥えて行ったりしたらまずいなぁ。窓枠にでも結わえておくか。
  (がたぴしがた)わぁうるさい。なんちゅう建てつけの甘い家や」
ジェシカ「誰…?」
ミョンス「…!(どきーん)」
ジェシカ「オッパ? ミョンス・オッパなん?」
ミョンス「な、なんでわかるの?」
ジェシカ「ホンマにオッパ? (がたぴし)…ちょっ、こんな夜中になにしてるん?」
ミョンス「う、うん。(うひゃー、スッピンや。でもこれはこれで…)ちょっと届け物を」
ジェシカ「届け物? …あ、これ、ハイヒール…」
ミョンス「ワシがスリッパなんかやったせいで迷惑かけたみたいやから。これはお詫びに」
ジェシカ「迷惑なんて。あれはウチが勝手に…」
ミョンス「中にレシートが入っとる。靴のサイズ判らんかったから目勘で買うて来たけど、レシート持ってけば交換してくれるから。
  それ履いて、スマン先生も文句の付けようがないダンス披露して、トップ当選してみせろや」
ジェシカ「23センチ、ぴったりや。…おおきにな」
ミョンス「礼には及ばん。”ザ・シューズ”の安物やから」
ジェシカ「うふふ。”ザ・シューズ”にこんなブランド品置いてへんで」
ミョンス「え、そお? おかしいなぁ」
ジェシカ「オッパ!(ギュ)」
ミョンス「(ドキーン)ジェ、ジェシカ…」
ジェシカ「ウチ、アホやからやっと自分の気持ちに気付いたの」
ミョンス「気持ち?(こ、この展開は…? ワシもギュってしてええのかな? 
  んーと、クルマにゴム乗っけてたっけ? ちゅうかここで? そやけど場所よりタイミングとも思うし。…うーん、うーん)」
ジェシカ「オッパ…(この気持ち、みんなに言って回りたい。なによりオッパに聞いて貰いたい。…でもそれ以上に)ウチはプロ歌手になりたいの」
ミョンス「(がく)そんなん知ってるわ。そやから練習生やってるんやろ?」
ジェシカ「そお? ウチは落選して初めて気付いたんよ、歌手になりたい気持ちがこれほど強いことに。ほかのすべてを犠牲にしても立派な歌手になりたいんや」
ミョンス「なれるで、きっと」
ジェシカ「うん。そやからもおオッパには逢わない」
ミョンス「(えー?)」
ジェシカ「オッパとおったらきっとまた甘えてしまう。そやから誰にも認められるプロになるまで、もう逢うのやめる」
ミョンス「そ、そおか。寂しくなるやんけ」
ジェシカ「逢わなくても、いつも応援してくれてる事わかってるから、全然平気や。ウチきっと、オッパにつり合う韓国を代表する歌手になってみせるよ」
ミョンス「韓国を代表するところまで行ったら、逆にワシが不釣合いやな」
ジェシカ「うふふ。でもそこまで行く。そしたら一緒に歌ってあげるわ、『海の王子』を」
ミョンス「そのときはお願いしますよ。でもせっかくやからオリジナルでいこうや。氷姫のテーマ曲なんかどお?」
ジェシカ「そうやね。…オッパ」
ミョンス「なに?」
ジェシカ「もっとギュってしてもええんやで。今夜だけは」
ミョンス「あ…はい(ギュ)」



後日談


2007年
ソニ「ひゃー、もうすぐ出番やなぁ」
ヒョヨン「いよいよデビューか(ぐっ)」
スヨン「ウチ2度目やけどな」
ティパニ「昨夜のパックのせいか、ほっぺがツルツルするわ」
でででで
ユリ「ちょっとちょっと、ロビーにでかい花が届いてるで」
ジェシカ「デビュー祝いか? カンタにいさん?」
ユリ「んにゃ、差出人は不明。自分宛てや」
ジェシカ「ウチに?」
ユナ「見に行こう、見に行こう」

テヨン「どひゃー、なんじゃこりゃ」
ソヒョン「どう見てもスリッパやね」
ヒョヨン「差し渡し1mものスリッパ型に花をアレンジして届けさせるこのセンス。ただもんじゃない」
ユナ「メッセージが…”ジェシカへ。韓国代表への第一歩やね。デビューおめでとう!”」
スヨン「誰やろう? …シカは身に覚えがあるんちゃうの? …シカ、シカ、ちょっとあんた泣いてるの?」


2008年
ティパニ「(くりくり)おお? ミョンスのおっさん、結婚やて」
スヨン「(もんぎゅもんぎゅ)あの若ハゲが?」
ティパニ「なになに…相手は8つ歳下の女医。やるなぁ海の王子
ぽぴぽぴ
ジェシカ「(ほーら、結局はウチよりもっと頭が良くて上品な大人の女と一緒になるんや)
  よぼせよー。6日のパク・ミョンスさんの結婚式に贈り物を。差し渡し1mばかりのハイヒールの飾りをお願いします。
  …いえ、花ではなく氷の彫刻で。…ええ、ええ、そのくらいのお値段なら問題ありません。
  メッセージですか? では”サランヘ、オッパ”と(イヒヒ、もめろもめろ)」 


2009年
ミョンス「歌謡祭の第2弾はデュエット大会やて?」
PD「そうです。『オリンピック大路デュエット歌謡祭』ゆう名前で」
ミョンス「ひゃー。ワシの相手はもお決まっとるの?」
PD「ええ、この後すぐ打ち合わせします。韓国を代表するガールズグループのメンボですよ」
ミョンス「ちゅうとワンゴルの?」
PD「アホですか? 今や韓国を代表するガールズグループゆうたら少女時代でしょうが」
ミョンス「少女時代?(ドキーン)」
AD「(さっ)お見えなりました」
PD「お通ししろ」
ミョンス「ま、まさか(どきどきどき)」
つかつかつか
ジェシカ「あんにょんはせよ〜。今回はよろしくお願いします」
PD「こちらこそよろしく。こちらユニットを組んでいただくパク・ミョンスさんです」
ジェシカ「(ペコ)よろしくお願いします」
ミョンス「…」
PD「ミョンスさん!」
ミョンス「あ、ああ、よろしくお願いします(ぼー)」
PD「早速ですが、おふたりにデュエットしていただく曲、どうゆうコンセプトでいきましょうか?」
ジェシカ「だったらミョンスさんの『海の王子』を…」
ミョンス「いや、この番組はオリジナルが条件や。せっかくやからジェシカさん向けの曲を作ろう」
PD「とゆうと?」
ミョンス「氷姫のテーマ曲を」
ジェシカ「…!(オッパ、大好き!)」