第13話 真夏の夜の夢(後編)

全員「(しょぼーん)また怒られた」
ソヨン「当然や。とにかくいつまでも庭におったら同じことの繰り返しや。迷惑にならんところに行こう」
ユナ「よし、なら次は肝試しやね」
スヨン「懲りん奴っちゃなぁ」
ユナ「そやかて、ウチ徹夜で合宿の栞書いたんやで(ぺら)」
ハジン「どれどれ…ほお、夜は花火と肝試しをするて書いてあるな」
ユナ「そやから栞のとおりにせんと気がすまんのよ」
ジェシカ「遊ぶことにはホンマまめやなぁ」
ユナ「ウチはこの合宿のために、バイトも休んで長いこと準備して来たんや。
  多少苦情ゆわれたくらいでやめられるかい」
ソヨン「その努力を歌の稽古にも少しは注ぎ」
ユナ「それを世間では無駄な努力とゆう」
ステラ「自分でゆうなよ」


ヒョヨン「で、こんな真っ暗な畦道に連れてきてどおしようっちゅうねん?」
ユナ「この先に丘に登る細い道があります。そこを二人ひと組になって懐中電灯だけを頼りに登って貰います。
  丘の中腹には道祖神を祭った小っちゃい祠があります。
  祠の中にみんなの名前を書いたお札を置いてあるので、順番にスタートして、各自自分のお札を取って来て下さい。
  一番時間が掛かった、もしくは持って来れなかったペアは罰として、明日一日おさんどんを担当して貰います」
ソヒョン「おねえ、バラエティのADになったらそこそこ優秀かもしれんな」
ティパニ「ペア分けはどうする? もおつまらんギャグは繰り返さへんぞ」
ユナ「確かに。そやから今立っとる順でええでしょ。ウチに向かって右から二人ずつワンペアね。一番左の…チュヒョンはウチとペアっちゅうことで」
ジェシカ「ウチはパニとか…」
ティパニ「相棒がシカじゃ、じぇんじぇん頼りになりまへん」 ← 恐がり
ジェシカ「ウチの台詞や」 ← もっと恐がり
テヨン「私はUFOとお化けは信じません」
ヒョヨン「私が怖いのは借金取りだけです」
テヨン/ヒョヨン「がっはっは!」
ヒョヨン「おさんどんなら家事が得意なウチら二人が適任やけど、最強の組み合わせなので負ける可能性がありまへん(笑)」
ユナ「まぁそうゆうお化け耐性のある方もいらっしゃるので、一発怖い話でもして、気分を盛り上げてからスタートしましょう」
スヨン「余計なことせんでええ」
ステラ「そうや、こんな真っ暗な田舎道におるだけでも充分怖いのに」
ユナ「そうゆわんと。チュヒョン、なんか怖い話をしてあげて」
ソヒョン「んー、ならとっておきの”本当にあった怖い話”を」
全員「ごくっ」
ソヒョン「アウシュビッツ大虐殺の話」
ジェシカ「怖すぎるわ!(ばしばし)」
ティパニ「シャレにならん!(げしげし)」
ソヒョン「きゅうう」
ユナ「ほな、こうゆうのはどうでしょう。(カチ)」
♪ヒュ〜ドロドロ(ラジカセ)
ティパニ「(ビクーン)ひぃ」
ステラ「マジで用意万端やな」
ユナ「テレビ局は霊の多い場所として有名ですが、MBCの楊州スタジオで料理番組を撮影すると必ず悲劇が起こるゆう話はご存じ?」
スヨン「い、いや、聞いたことないけど…」
ユナ「昔、そこのスタジオのひとつで料理番組の撮影があってたんやけど…。
  ほら、みんなも知ってるやろ、『たった5分で何が出来るかな?』てキャッチの…」
全員「う、うん」
ユナ「何年か前、撮影が終わってスタッフも引き上げた後のスタジオで、料理指導の先生がひとりで翌日の仕込をしてたんよ。
  まだ若くて綺麗な女の先生やったゆう話や。
  コチュジャンを使う炒め料理やったんやけど、試作の途中で火が消えてもうて。
  先生、”おかしいな”て鍋をどけて、”点火口詰まってんのかな”…顔を近づけて、カチってスイッチをひねったんよ。
  すると…ボッ!!
ティパニ「ひっ」
ユナ「噴出した炎が先生の綺麗な顔を襲ったんや。あっとゆう間に目ん玉が煮えて、髪の毛にも火がついた。
  ”ぎゃー! 熱い熱い! 目が溶ける、顔が燃える−!!”」
ジェシカ「キャー!(しがみ)」
ティパニ「いやぁ、掴まんといて!」
ジェシカ「そ、そやけど」
ユナ「絶叫しながらも、先生は火を消さなあかん思うたんやろう、見えない目で必死に消火器をつかんでコンロに向けた。
  …(ぼそ)でもそれは消火器やなかった。コチュジャンの缶やったんや」
ユリ「ひょえええ」
テヨン「(さすが女優候補、話が上手いやんけ)」
ユナ「髪の毛はまだ燃えとる。綺麗だった顔も醜く焼けただれてしもうた。
  それでも先生は燃え盛る炎に向かって、コチュジャンをかけ続けたけど、火が消えるわけがない。
  メラメラメラ…
  それどころか、炎はコチュジャンの缶を持った先生の手に燃え移った。袖口から肩に掛けて真っ赤な炎がなめる様に多い尽くした。
  ”燃えてる、身体が燃えてる! 何も見えへんのに、目の前が真っ赤や!”
  先生はもう片方の手で必死にキッチンをまさぐって、最初に触れたものを掴んだ。それが包丁やてことは先生にもすぐわかった。
  包丁で火を消すにはどうしたらいい? …先生の脳裏に浮かんだのは絶望的なアイデアだけやった」
スヨン「ど、どないしたん?」
ユナ「先生は絶望にすすり泣きながら、燃えている袖口に包丁を当てた。そして、ズバーッ!
ステラ「お、おしっこ、ちびるぅ」
ユナ「動脈を切断された先生の手首から大量に血が噴き出した。先生はその血を燃えている顔や服やコンロに掛け続けた。
  スタジオの中は炎と鮮血で真っ赤に染まった。
  先生が息絶えた後も、血はいつまでも噴き出し続けていたゆう話や。
  翌月、騒ぎが収まった後に同じスタジオで番組の収録が再開された。
  新しく料理指導になった先生がコチュジャンの缶を開けると、女の人のすすり泣きが聞こえた。”燃えてる…燃えてるよぉ”
  そして、缶からはドクドクドクドク…血のように真っ赤な液体が溢れて来た…
ジェシカ/ティパニ「ひーっ!」
ユナ「それからそのスタジオでコチュジャンを使おうとすると、必ず同じような事件が起きるらしい」
ヒョヨン「(パチパチパチ)うん、おもろかった」
テヨン「ほな、行こか」
全員「…わ、笑とる。恐るべし、ダブル・キムヨン」
ユナ「こうゆう冷血漢の方が怪談よりよっぽど怖いわ」


てくてく
ヒョヨン「なんであれが怖いのかさっぱりわからんな」
テヨン「死んでる奴より生きとる奴のほうがよっぽど怖いんやけどな」
ヒョヨン「おっしゃるとおり。でも、ユナの話し方は上手かったで」
テヨン「うん。いずれ売れるかも知れんから、今のうちに潰しとくか」
ヒョヨン「(笑)ほらな、生きとる人間の方がよっぽど怖い」


ユナ「はーい、5分たちました。次の組、出発してくださーい」
ジェシカ「(どきーん)ウ、ウチらの番やで」
ティパニ「ひえー、行きたくないよお」
ソヒョン「さっさと行ってください。後がつかえてるんやから」
ティパニ「オニ!」
ジェシカ「しゃあない。手を握って行こう」
ティパニ「う、うん」
そろそろ
ガサササッ
ジェシカ/ティパニ「ひえーっ!(ピューッ)」
ソヒョン「やれやれ。風で草が揺れただけで走って行ってもうた(笑)」
ユナ「なんちゅうビビりや。将来『強心臓』ゆう番組があったとしたら、あいつら絶対出れへんで」
ソヒョン「ところでおねえ、このイベントって、あのコンビはともかくとして、ダブル・キムヨンには全然肝試しになってへんのじゃないの?」
ユナ「それくらいウチかて考えとるわ。昼間ウチがビーチでヒッカケた奴らがおったやろ?」
ソヒョン「ああ、あのチャラ男たち」
ユナ「奴らに白衣を着て道の途中に潜んどくように命令してあるんや。
  いくらダブル・キムヨンでも、あの怪談聞いた後に、白衣を着たお化けが出てきたら絶対ビビるって」
ソヒョン「そうかなぁ」
ユナ「”ビビッた奴には頭からコチュジャンかけてやれ”ゆうとるから、いずれ顔を真っ赤にして下りてくるで」


テヨン「ここが祠やな。さっさとお札とって帰ろうぜ」
ヒョヨン「おう。そういえば道の途中で出てきた奴ら、何やったんかなぁ? 痴漢やろか?
  でも痴漢があんな白い服着てるわけないけどなぁ。どお思う?」
テヨン「んー、わからん。どんな服着てようが、襲ってくる奴は敵や。いちいち考えへんよ」
ヒョヨン「誰何もせんと、問答無用の攻撃やったもんなぁ。自分軍隊入ったら絶対海兵隊からスカウト来るで」
テヨン「マジで? やだなぁ。徴兵期間長うなるやん…て、アホ!」
ヒョヨン「わははは。それにしても、くたばった暴漢を木に逆さ吊りにして、コチュジャンまでぶっかけるとは、とことんSよのう」
テヨン「それやけど、奴らなんでコチュジャンの缶持ってたんかなぁ?」


ジェシカ「(おそるおそる)なんか木が鬱蒼として来たんですけど」
ティパニ「真っ暗やなぁ、怖いなぁ…!(ひーっ!)」
ジョジョジョー
ジェシカ「ど、どないした?」
ティパニ「あ、あれ…(指し)」
ジェシカ「…!(ひーっ!)」
ジャジャジャー
ジェシカ「は、は、白衣…き、木の枝からぶらぶら下が下がって…(ガクガク)」
白衣のチャラ男「(ぐるーん)」
ふたり「うわーっ!」
ティパニ「か、顔が…、顔が血だらけやぁ!」
ふたり「助けてー!!(ぴゅーっ)」
ドダダダダ−!


遠い声「わー!」
遠い声「キャーッ!」
ユナ「お、そろそろチャラ男どもが仕事を始めたな」
ソヒョン「ダブル・キムヨンの声ではないような」
ユナ「声も出でんと、オシッコちびっとるんちゃうか?」
ソヒョン「ならええけど」
ユナ「そろそろウチらも行こうか。あんまり遅くなるとウチらがおさんどんてことになるからな」
ソヒョン「連中のあの悲鳴具合からして、それは大丈夫思うけどな」
てくてくてく
ヒタヒタヒタ
ソヒョン「…ん?」
ユナ「どした?」
ソヒョン「なんか、ウチらの後ろからつけて来る気配が…」
ユナ「そんな訳ないやろ。ウチらが一番最後に出たんやから」
ソヒョン「そ、そやけど…」
てくてくてく
ヒタヒタヒタ
ソヒョン「や、やっぱり…」
ユナ「ホ、ホンマや。誰かつけて来てる(ぞお)」
ソヒョン「でも誰が…、誰もおらへんはずやのに…」
ヒタヒタヒタ
ユナ「し、白い服や、白い服が見えた(ひーっ)」
ソヒョン「チャ、チャラ男ちゃうの?」
ユナ「ちゃう。女の人みたい」
ソヒョン「いやー、おねえが冗談半分であんな怪談話すからやで(半べそ)」
ヒタヒタヒタ
白い服「…えてる、…てるよ」
ユナ「な、な、なんやて?」
ヒタヒタヒタ
白い服「(ぬー)燃えてる…燃えてるよぉ
ユナ/ソヒョン「ぎゃーっ!」
ドダダダダー!
白い服(女の子A)「なんやなんや、人をお化けみたいに。自分らの別荘、えらいことになっとるからわざわざ教えに来てやったのに。
  これやからSMの奴らは…。もお知らんわ(ぷんぷん)」


スヨン「ああ、燃えてる…燃えてるよぉ(がっくし)」
ソヨン「近所の人が消防に通報して、小火ですんだらしいけどな」
テヨン「そやけど、納戸は焼け落ちとるし、放水で中は水浸しやな」
スヨン「夢やぁ。だれか夢ゆうてくれ」
ステラ「花火した後、誰も火の始末せんかったん?」
ハジン「そういや誰もしてへんな」
ソヒョン「となると原因は火を見るよりも明らかや」
テヨン「もお火は見ちゃってるけどな(がっはっは)」
スヨン「笑てる場合か(ドゲシ)」
ユナ「幸いなことに被害はこの一画だけで、キッチンもコチュジャンの缶も無害でした」
ジェシカ「いつまでオカルトひっぱとるねん」
ソヨン「とにかくなんとか元通りにせんと、スヨンのじいさんに申し訳が立たん」
ヒョヨン「そんな金は持ってません」
ユナ「あったら最初からこの別荘借りてへんし」
ソヨン「わかっとる。みんなで稼ぐしかないやろ」
ティパニ「稼ぐてどうやって? この辺りにはピンサロとか見あたらへんけど」
ステラ「バイトゆうたらそれか」
ヒョヨン「大丈夫、ウチにアイデアがある」
スヨン「アイデア?」
ヒョヨン「これや!(ビラン)」
全員「そ、それは…!?」