第8話 弥次喜多

※今回、湖南弁はこの世界の標準語に翻訳しています


於:SMエンタ
ジェシカ「問題は、どうやって奴の実家まで行くか、ゆうことやな」
ステラ「やっぱKTXが早いかな? 益山で乗り換えやったけ?」
ジェシカ「(ブルブル)そんな贅沢な」
ソヒョン「そやけど、在来線やったらえらい時間かかるで。かえって駅弁代が高くつくんちゃう?」
ジェシカ「まぁ飯は我慢できるけど、KTXの料金は負けて貰えへんからな」
スヨン「ええ? 飯が我慢できるなんて(ソンケー)」
ソルリ「安くて早いんは高速バスやですわ。乗り場もこっから地下鉄ですぐやし、1時間に何本も出とるから、待たずに乗れる」
ティパニ「あ、そうそう。以前テヨンと行った時もバスやったわ」
ジェシカ「そ、そんで、バスだといくらするねん?」
ユナ「それそれ、それが問題や」
ソルリ「ウチの田舎とルートが違うさかい厳密には判らんけど、多分2万ウォンはしないかと」
ジェシカ/ユナ「ひ〜〜〜(蒼白)」
ユナ「と、とても無理や。ウチはこの件から降ろさせて貰うで」
ステラ「アホゆうな。みんなで決めたことやろ。はい、カンパ、カンパ」
ユナ「堪忍してやぁ」
ティパニ「あ、金ならウチ持っとるで」
全員「なぬ?」
ティパニ「梨乃先生とかドワン先生たちが、事務所に内緒で提供してくれた。テヨンが強情な場合、2〜3泊ならホテルにも泊まれるくらいはある」
ジェシカ「(へなへな)は、早よゆえや、心臓に悪い」
ティパニ「そら失礼。そやけど、たかだか数万ウォンのことで、そこまでビビる人間がおるとは思わへんから」
ジェシカ「たかだか数万ウォン…。こ、この罰当たりめが!」
ユナ「数万あったら、ウチなら一ヶ月生活できるで」
ステラ「ミラクル伝説かよ」


於:路上
ティパニ「ほな、行って来まーす!」
ソヨン「うん。きっと3人で帰って来るんやで」
ティパニ「はーい!」
てくてく
てくてく
ティパニ「高速ターミナルて、稽古場から歩いても行けるくらい近かったんやな。ちっとも知らんかったわ」
ジェシカ「ほな、このまま歩いて行こか?」
ティパニ「それはさすがに時間かかり過ぎやろ。たった3駅といえども、地下鉄で行くべきや」
ジェシカ「そ、そお?」
てくてく
てくてく
ティパニ「お、見てみい。あっこの公園から野良犬がじっとこっち見とるで。自分、キビ団子持ってへんか?」
ジェシカ「持ってるかいな。それに犬なんか手なずけても、テヨン相手じゃ速攻で食われてまうど。引き入れるなら猿か雉にせえ」
ティパニ「あっはっは。テヨンもすっかり鬼扱いやな」


於:高速ターミナル
ゴーッ
ティパニ「ここが高速ターミナル駅か。初めて降りたけど、相当広いな。えーと、全州行きは6番…その前に切符買うのかな?」
ジェシカ「あ…あんな、ちょっと相談やけど、バスはやめてヒッチハイクで行かへんか?」
ティパニ「はあ?」
ジェシカ「この上に出たらすぐ高速道路やし、全州方向に行く車かてビュンビュン走っとるやないの。
  ウチと自分の色気があったら、鼻の下を伸ばしたおっさんがすぐ止まってくれるて」
ティパニ「高速で車止めたらあかんやろ」
ジェシカ「なぁ、頼むわ。出来るだけ経費浮かして、余った金で妹の給食費払ってやりたいねん。これ、この通り(へへー)」
ティパニ「ちょっと、やめてや(プライドの高いこの女が、人混みの中で土下寝するなんて、どんだけ貧乏な生活送っとるねん)。
  気持ちは判るけど、これはテヨンを迎えに行くために貰うた金や。使途不明金なんか出す訳にはいかん。ウチ、使うた分キチンと領収書貰うからな」
ジェシカ「融通の利かん奴や。金持ちが金に細かいてホンマやな」
ティパニ「逆や。キチンと管理出来るから金を貯めれるんや。さぁ立ちい。スジョンの給食費のことは、テヨンを連れ戻した後考えるから」
ジェシカ「ホンマ?」
ティパニ「まぁみんなにカンパ募ればそれくらい集まるやろ(多分)」
ジェシカ「おおきに、おおきにな(わーんわーん)。初めて会うた時は嫌な奴やなぁ思うたけど、案外ええ奴やったんやなぁ」
ティパニ「(案外て何やねん)寝たまま泣くなって」
ジェシカ「へい(すくっ)」
ティパニ「(うわ、現金な奴)とにかく服の汚れを落とし。埃だらけの奴と隣り合わせに座りとおない」
ジェシカ「(ぶつぶつ)普段身体洗わんくせに、こうゆうときだけ清潔ぶりやがって」
ティパニ「なにかおっしゃいました?」
ジェシカ「なんでもないです(パタパタ)。ほな、バスの切符買おか。3時間もかかるから楽ちんな優等バスにしようや」
ティパニ「んー、ひとり16000ウォンか。まぁそれぐらいはええやろ」
ジェシカ「テヨンを迎えに行く経費にしか使えへんのやったら、ケチケチしとっても無駄やもんな。
  ウチな、貧乏やから誤解されとるけど、使うてええ金がある時はパッと使うタイプやねん。決してケチやないんやで」
ティパニ「わかるわ(そやから金が貯まらんへんのやろ?)」
ジェシカ「そや、弁当買わな。列車と違うて車内で買えへんから、これは大事やで。あと、おやつもいるな。新世界デパート寄っていこうや(きゃいきゃい)」
ティパニ「あいつ、一銭残らず使う気やないやろな」


3時間後…


於:全州高速バスターミナル
ジェシカ「あー、やっと着いた。やっぱ、全州は遠いなぁ。帰ったらみんな老人になってるんちゃうか?」
ティパニ「宇宙旅行か! まぁ、自分は飯喰うた後ずっと冬眠しとったから、そんな感じかもしれんけど」
ジェシカ「そうでもないで。トイレ休憩の亭安サービスエリアではめっちゃ走ったし」
ティパニ「休憩時間10分しかないのに、クルミ菓子の店に並ぶからや。危うく置いて行かれるところやったで」
ジェシカ「そやかてウチ、今まであんまり旅行とかしたことないもん。つい嬉しゅうて、はしゃいでもうたわ」
ティパニ「自分、アメリカから渡韓して来たんやろ?」
ジェシカ「あの時は貨物船の船倉に潜り込んで、ずーっとバレへんように息を潜めとったから、とても旅行ゆう感じやなかったし」
ティパニ「密航して来たんか!?(ひえー) よお上陸できたな」
ジェシカ「一応韓国籍もあるからそこは大丈夫。それより、これからどおする?」
ティパニ「そらテヨンの家に行くしかないやろ。まだ日も高いし」
ジェシカ「こっから近いの?」
ティパニ「歩くのはちょっとなぁ。前来た時はテヨンのおとんが迎えに来てくれたから無問題やったけど、車でも15分くらいかかったで」
ジェシカ「ここに市内地図があるから見てみようや。ここが現在地やろ…テヨンの家は?」
ティパニ「川の近くやったから、この辺かなぁ」
    
ジェシカ「へえ、有名な全州の韓屋村てこんな近くにあるんやね。ついでにちょっと覗いて行かへんか?」
ティパニ「ウチ、前に連れてって貰ったもん。そんなおもろいところちゃうで。それに観光なんかしとったら、それこそ日が暮れてまうわ」
ジェシカ「ちぇー。全州なんかもう二度と来る機会ないのに」
ティパニ「デビュー出来たら、絶対営業で廻ることになるて。もっと遠い光州やら釜山やらにも何度も行くんとちゃうか?」
ジェシカ「えー、メンドイなぁ。客の方がウチの家まで観に来たらええのに」
ティパニ「お前は世界遺産か」


於:西ドイツ眼鏡院孝子洞店
ドタドタドタ
子分「おやび〜ん、大変や!」
テヨン「どないした?」
子分「おやびんにゆわれたとおりバスターミナルを見張っとったら、ティパニねえさんが降りてきはって」
テヨン「う〜む、やっぱり迎えに来やがったか」
子分「ツレの女の人と市内地図を前になにやら話されてました」
テヨン「ツレ? どんな奴や?」
子分「えーと、年の頃はおやびんくらい、キツネみたいな顔で歯の矯正具をしておられました」
テヨン「シカ?(なんでシカが来るねん。あいつはウチを嫌ってるはず。はっ、さてはこのままウチを亡き者にしようと…)」
子分「どないします? 迎えを出しましょうか?」
テヨン「…いや、ええ。その代り、手の者を4〜5人、豊南門によこしてや。自分はパニの顔を知っとるからここにおって…(ひそひそ)」


於:同 入り口
ティパニ「あ、確かこの辺や。運転手さん、そこのパン屋さんの前で降ろして下さい」
運ちゃん「へえ、おおきに」
ばたん、ぶぅー
ジェシカ「へえ、田舎のくせにショッピングモールとかあるんやな」
ティパニ「テヨンの実家はこの中にあるんや。ほな、行こか」
ジェシカ「ちょ、ちょっと待って。ウチ、どんな顔して奴に会うたらええんや?(どきどき)」
ティパニ「いつもみたいに、”ふん”て顔しとったらええやん。それが自分らしいし、向こうも安心するわ」
ジェシカ「ウチ、いつもそんな顔しとる?」
ティパニ「そらもお思いっきり」
ジェシカ「そうかぁ(それでいろいろ誤解されるんやな。ちょっと反省しよ)」
子分「ご無沙汰しておりやした、ティパニねえさん」
ティパニ「わぁ、びっくりした!」
ジェシカ「きゃー、誰?」
子分「自分はテヨンおやびんの手下でおます。名前はまだありやせん」
ジェシカ「夏目漱石の猫か!」
子分「そちらはチョン・スヨンさんとお見受けしました。どうかお見知りおきを」
ジェシカ「スヨンゆうな(あの女、わざと韓国名を教えやがったな)」
子分「ところで、わざわざおやびんのご実家までお越しいただいてすんまへんが、おやびんは今ここにおられませんのや」
ティパニ「へ? ほな、どこに?」
子分「韓屋村でお待ちですわ」
ティパニ「なんでそんな所に? 全州観光大使になるにはまだ大分早いで」
ジェシカ「ほらぁ、そやから韓屋村見てから行こうゆうたやないの。タクシー代無駄になったやんか」
ティパニ「そやかてテヨンがそんなベタな所におるなんて知らへんもん」
ジェシカ「とにかく、そこに行かな話にならんのやろ。しゃあない、タクシー代勿体ないけど行くわ」
ティパニ「(自分の金でもないくせに)」


於:韓屋村/豊南
ジェシカ「わぁ、街全体が時代劇みたいや」
ティパニ「確かに、都市の真ん中にこれだけの韓屋村があるのはここだけやろうな」
ジェシカ「なぁ、芝生の上に落ちとるアレ、テヨンの物入れちゃうか?」
ティパニ「あ、ホンマや。ほな、やっぱりここにおるんやね。(てけてけ)物を落とすなんてテヨンらしくもないなぁ(拾い)」
シュッ、グサグサグサッ!!
ティパニ「うわぁああああ!」
ジェシカ「ど、どないした?」
ティパニ「矢が、矢が、ウチをかすめて」
ジェシカ「♪シュシュシュー…て?」
ティパニ「そんな未来の歌を歌うてる場合か! テヨンの奴、ブービートラップ仕掛けとるわ」
ジェシカ「なんで?」
ティパニ「知らんがな。そやけど、ウチあと5センチで串刺しになるところやったで」
ジェシカ「この分じゃ、まだまだ仕掛けてあるな。テヨンの奴、韓屋村全体を戦場にする気か?」
ティパニ「ははあ。てことは次回は『ランボー』ですね、ねえさん」
ジェシカ「そのようやな。とりあえず、TSUTAYAからDVD借りて来て予習しとこう」
ティパニ「今なら旧作一本80円!」







※ソウルから全州へ行く方法はここに書いてあるとおり。KTXで行く場合、乗り場がソウル駅ではなく龍山駅になるので注意。
 高速バスの料金は、この時期、優等が₩16000、普通が₩11000である(ソウル-仁川間のリムジンバスが₩15000だから、それに比しても安い)
 ちなみに通常の駅弁がひとつ₩7000なので、韓国でのバス料金がいかに安いか判る。
 日本の高速バスでこの距離を走ったら\3000〜4000はとられるだろう。
 まぁ日本の物価が異常に高いことは、ビッグマック指数を参考にしなくても、容易に体感できることで、
 少女時代も日本のテレビに出た際「昨日すき焼き食べました。美味しかったです」とコメントした後、「すごく高かった」と呟いている。


※「初めて会うた時は嫌な奴やなぁ思うたけど」…実際のジェシカのティファニー初対面の印象は「うるさい奴」だそうである。
 最近こそ大人っぽくなって静かにしているが、デビュー間もない頃までのティファニーは本当に良く喋っていた。
 ただ、言葉をよく知らず、儒教精神にも欠けるため、失言も多かったようだ。
 宿所に帰るとテヨンからよく説教されたていたと、ジェシカもラジオで証言している。


※3時間後…ソウル〜全州間は高速バスで2時間50分。バスはほとんど高速しか通らないので、渋滞もなく、ほぼ時間通りに着くようだ。
 ただ途中トイレ休憩があるなど、日本と違いバスにトイレが完備されている訳ではなさそう。


ジェシカが美国人か韓国人かよくわからなかったのだが、ケビンさんが「二重国籍女」といっており、ここではそれに従っている。


※全州…今さらだが、テヨンの出身地。女優のユン・ソナも同地の出身。
 全羅北道の道庁所在地で、人口は60万規模(2区40洞)。
 全羅南道の光州(人口140万規模)に比べると半分以下であり、日本で言えばぎりぎり政令指定されるかどうかの地方都市と思えば良く、
 そう田舎でもないが、胸を張って都会と言える訳でもない。
 だが、歴史は古く、1200年を超える。製紙と歌(ソリ)と食の都であり、全州ピビンパはあまりにも有名。
 完山七峰など豊かな自然も売りだが、韓国は都市部を外れると大概豊かな自然しかなくなるので、全州だけの特徴ではない。
 作中で示した市街中心図だが、この範囲外の東側にもう少し街並みが続き、南側はこの先すぐ田園地帯となっている。
 その田園地帯のど真ん中にテヨンとソヒョンが在籍していた全州芸術高校がある(西ドイツ眼鏡院から4〜5キロ)。かなり老朽化した建物である。
 

※韓屋村…王朝時代の韓式の家屋が建ち並んでいる区画で、全州のものは規模も大きく、市街地の真ん中にあるので有名。
 日本で言うと武家屋敷みたいなものか。山口県萩市の城下町辺りを想像して貰うと判りやすいかも。
 ようするに街であって日光江戸村のようなテーマパークではない。区画内には、人が生活し、ちゃんと店も学校もある。     
    



※西ドイツ眼鏡院…テヨンの父親が経営する眼鏡店。韓国に幾つもある西ドイツ眼鏡院のフランチャイズらしく、正確には孝子洞店と続く。
 孝子洞は全州の中心を形成する完山区の繁華街で、店はそのソドプラザと言うショッピングモールにある。
 大通りに面してパン屋があるのは調査済みだが(2005年現在)、今でもあるかは不明。
 西ドイツ眼鏡院をよくテヨンの実家とゆうが、あくまで店舗であり、キム一家がここに住んでいるとは考えられない。
 おそらく全州市のどこかに、マンションなり一件屋なり生活の場があると思われるが、おとんもおかんも昼間はこの店にいるので、ここを実家代わりに描いている。
 実際にここを訪れたことのある『永遠にソニョシデ(少女時代)』のブログ主Hitoshiさんによると、駅からタクシーに乗って「ソドプラザまで」と言うと行けるそうなので、
 『アイビス眼鏡コンタクト』と名前を変えた現在も場所は変わっていないようである。