第7話 テヨン脱走

仲宗根トレーナー「ハナ・トゥル、ハナ・トゥル、はい、そこでくるっと回って」
全員「よろしくね、っと!(ゼイゼイ)」
仲宗根「う〜ん…ま、ええでしょう」
ユリ「(なんやこのパンくんの挨拶みたいな振り付けは?)」
仲宗根「ほな、今日はここまで。各自練習して、次回までにちゃんと出来るようにしとくんやで」
全員「お疲れ様でしたー!」
スヨン「禊は済んだ。さぁ、これから餅つき大会や、パァッとやるでえ!」
ジェシカ「食いモンが関わると元気やなぁ」
ユナ「こんだけ稽古で絞られたら、ウチなんか杵を持つ気力もないわ」
スヨン「何ゆうとんの、一番力持ちの自分が参加せんと、誰が餅つくゆうねん」
ユナ「は? あんたちゃうの?」
スヨン「ウチは非力やさかい、指示して食うだけや。口以外の筋肉、一切動かさへんで」
ヒョヨン「その身長、ホンマに無駄やな(呆)」
ワイワイワイ
仲宗根「テヨン、キム・テヨン!」
テヨン「へえ。(てけてけ)呼んだけーのー?」
仲宗根「自分は居残りや。今日から毎晩ダンスレッスンの補習」
テヨン「ええっ? で、でも、ウチこの後…」
仲宗根「5分休憩したら、すぐ補習開始や。餅つきなんかやっとる場合やないで」
テヨン「いや、ウチは乱交パーティなんかに興味ないんやけど」
ジェシカ「誰が乱交パーティするか! 餅つきの意味を取り違えるなや」
ティパニ「え、マジで餅つく方なの? エッチやなしに?」
ジェシカ「誰かこいつも臼に入れてついたれや」
スヨン「餅が臭くなるからいやや」


こんこん、がちゃ
ドワン「お、テヨンやないか。どおした?」
テヨン「先生、実は今夜の練習、付き合うてもらわんでもよくなりましたんや」
ドワン「ああ、聞いたで。ダンスの補習やってな。アイドルになるためにはダンスも大事や。ま、頑張りぃ」
テヨン「そやけどウチは歌の練習をしたいんです。まだまだ足りへんとこいっぱいあるのに…」
ドワン「そお焦るな。自分は今でも練習生の中で一番歌上手いやないか。
  もっと余裕持って、ダンスや演技や肉体表現に力を入れても、ちっとも問題ない。
  むしろそっちが遅れとるんやから、強化せにゃ」
テヨン「…」
ドワン「自分もずいぶん痩せて可愛くなったさかい、多分来年か再来年にはデビューできるやろ。
  そやけどダンスで及第点とってへん奴を、いきなりアーティスト枠でソロデビューさせるほどSMは甘くないで。
  ワシかてそんな奴に太鼓判を押す気は毛頭ない。
  歌唱練習の半分でええから、ダンスにも力を入れな。そんで誰もが納得する形でデビューを勝ちとるんや」
テヨン「…はぁ」


パンパンパン
仲宗根「そお、そこで、こおっ! 違う、もっと大きく、こおっ!」
テヨン「ゼーハーゼーハー!」
仲宗根「もっともっともっと、大きく!」
テヨン「こ、こうでっか?」
仲宗根「違ーう! もお、このドパボ!(バチーン!)」
テヨン「あいたっ。ゆ、ゆわれた通りにやってますやん」
仲宗根「どこがゆわれた通りや? ウチがいつそんな幼稚園のお遊戯みたいな動きを要求した? (グッ)決めのポーズはこうやろ、こう!」
テヨン「(バキバキ)イテテテテ。か、肩が抜けるぅ」
仲宗根「おお、肩ぐらい抜いてみせろや。そんでそのアイドルにあるまじき短い手足を1センチでも長く見せろ。それがプロ根性や!」
テヨン「ヒー(こ、これはあかん。もお限界やぁ)」


かちゃ
ティパニ「毎度夜中ですいません。今帰ったでー」

ティパニ「ん、真っ暗やな。テヨン、ソルリ、おるの? 晩飯食うたか? まだなら餅仰山持って帰ったから食えへんかぁ?」
パチ…ちかちか…ぴかっ ← 昔の蛍光灯
ソルリ「むー、むぅうう(じたばた)」
ティパニ「ああっ、ソルリ! どないしたんや、猿ぐつわかまされて。強盗でも入ったんか?」
ソルリ「(ぺっ!)うげげげぇ。あーしんどかったぁ」
ティパニ「だ、誰に縛られた? テヨンは無事か?」
ソルリ「大変や。テヨンねえが…テヨンねえがぁ…!」
ティパニ「な、な、な、なんやてぇえええ!?」


全員「な、な、な、なんやてぇえええ!?」
ティパニ「寝室を覗いたら、テヨンの私物はもお跡形もなかった」
ユナ「まさか、あの練習の虫が逃げ出すなんてなぁ」
ヒョヨン「練習好きゆうても、歌とか発声の練習ばかりやったし」
スヨン「自分かてダンスの練習しか身ぃ入れてへんやんけ」
ヒョヨン「ウチは歌はもお充分上手いから練習せんでええんや」
ティパニ「つまらんジョークは置いといて、ソルリがずいぶん止めたそうやけど、結局ぐるぐる巻きにされて阻止でけへんかったそうや」
ヒョヨン「冗談扱いかよ(本心やったのに)」
ユナ「実家に帰ったんかなぁ」
ユリ「そやないの? 他に行き場はないやろ」
ソヒョン「彷徨っているうちに砂漠でランバ・ラルとハモン・ラルに遭遇しとるかも」
スヨン「この国に砂漠なんてあったか?」
ソヒョン「ハモンに食事を奢ってもらいそうになっても、おねえのことやから生意気な態度をとるんやろうな」
ユナ「そやけど、出て行ったのは昨夜遅くやろ? もおバスも電車もなかったんちゃうの?」
ソヒョン「雨も降っとたし、多分オールナイトの映画館に入って、科学ドキュメンタリー映画を観て暇を潰してたのかも」
ユリ「自分、さっきから何の話をしとるんや?」
ソヒョン「干渉無用。趣味の世界です」
ヒョヨン「で、事務所にはなんと?」
ティパニ「まだゆうてないよ。勝手に出て行ったなんてゆうたらクビになるかもしれんし」
ユリ「そやなぁ。戻ってくるまで風邪ひいたことにして誤魔化すか」
ユナ「戻って来えへんかったら、ウチらも共犯やで」
ジェシカ「戻ってくるがな!
  あいつは生意気で、田舎モンで、チビで、どうしようもない奴やけど、歌手になるゆう気持ちだけはホンモンやった。
  こんな小さなつまずきで一生の夢を棒に振れるわけがないわ」
ヒョヨン「わ(びっくりした。こいつはこいつなりに、テヨンのこと認めてたんやな)」
バーン!
仲宗根「待っとるだけでええんか?!」
全員「梨、梨乃先生?」
仲宗根「こんなところでこそこそ話しとっても何の解決にもならん。自分らがホンマにテヨンを仲間と思うなら、力づくでも引き戻すべきやないか?」
ティパニ「知ってはったんですか?」
仲宗根「ウチをなめるなよ。お前らの浅知恵なんか、全部お見通しじゃ。
  テヨンがいずれ売れる歌手になる思うとるから、厳しいようでもいま鍛えとるんや。才能のない奴なんか、ハナから相手にせんわ。
  お前ら全員そうやで。もっとプライドを持て」
ジェシカ「うう(ジーン)」
仲宗根「とゆうても事務所としては、出て行ったモンに干渉することは公には出来へん。自分らでなんとかせえ」
ソヒョン「そうですね。やっぱり待ってるだけではアカンと思います。誰かがおねえの家まで行って、連れ戻して来ぃへんと」
ユナ「誰かて、誰や?」
ユリ「そらぁ…(ジー)」
ティパニ「なんでウチを見るんよ」
ユリ「テヨンの実家を知ってるの、自分だけやん」
ユナ「前の旧正月のとき泊まったやろ?」
ティパニ「そやけど、あんときはテヨンに連れられて行ったから、ひとりで行けるかどうか。
  大体ひとり旅出来るほど、まだ上手く韓国語喋れへんし、方言で喋られたら完全にお手上げや」
ジェシカ「ほな、ウチも行くわ」
全員「えー?」
ジェシカ「えーてなんやねん。あいつにはゆうてやりたいことが山ほどあるんや」
スヨン「(ひそひそ)意外。シカの奴、テングのこと気に食わんゆう態度やったのにな」
ユナ「(ひそひそ)何回かメシ食わせてもらったことあるさかい」
ヒョヨン「(ひそひそ)そんな即物的な理由なんか?」
仲宗根「よし、ほな、パニとシカで行って来い。ほかの教官に根回しして、レッスンはちゃんと出た事にしといたるさかい」
ジェシカ「はっ!」
仲宗根「必ずテヨンを連れて戻れよ。自分らいずれ同じグループで活動するようになるんやからな」
全員「マ、マジっすか?」
ティパニ「なんかえらいことになって来たなぁ(嘆息)」






※いつまでも「ジェシカの恋」が書けないので、もうひとつの大ネタ「テヨン脱走」を先に書くことにしました。


※2008年3月1日放送のKBS2『スターゴールデンベル』で、元SESのシューが「デビュー直前に練習が辛くて逃げ出したことがある」と発言。
 それを受けてテヨンも「少女時代メンバーにも逃げ出した人がいる」と言って出演陣を驚かせた。
 次いで、それは「私です」と逃亡したのが自分であることを告白した。
 テヨンが練習の虫で毎晩夜中まで自主的にレッスンしていたのは有名なので、みんな更に驚いた。
 が、同席していたティファニーも「ある日部屋に帰ったらテヨンの荷物がひとつもなくなっていてビックリした」と認めている。
 テヨンは一旦実家に帰ったが、思い直してすぐソウルに戻ったそうである。
 この日の発言では脱走の時期までは特定できないが、シューが「デビュー直前に」と言っていることから、テヨンの場合もその可能性はある。
 デビューが決まるとレッスンも相当激しくなるのだろう。
 少女時代のデビューはおよそ1年前から決まっていたようで(メンバーが確定していた訳ではなさそうだが)、となると2006年夏頃からがその時期となる。
 シューの発言と矛盾するが、あまりデビューに近いとモチベーションが上がってしまい、今さら逃げ出したりしないんじゃないかという気もする。
 前述した田舎医者のインタビュー記事では、テヨンらしい人物が割と早く挫折を味わったように言っているので、練習生になってすぐの可能性も否定できない。
 とりあえず2006年頃と言うことにしておいたが、新事実が判れば修正する。
 また、歌に関しては貪欲なテヨンが、歌のレッスンでへこたれるというのも考えにくいので、ここではダンスレッスンでしごかれて、と言うことにした。


※ダンストレーナー仲宗根梨乃なのは完全にシャレである。このころはアメリカにいたはずだ。
 ボーカルトレーナーがドワンだった可能性は否定できないが、インタビューではアカデミーで教えていたようになっているので、多分違うだろう。


※餅をつく…”떡 치다”は隠語で性交を表わすこともある。
 以前少女時代が下着姿で餅をついている画を描いて物議をかもしたマンガ家がいたので憶えた。


※テヨンはすぐ戻って来たそうなので、誰も迎えに行ってはいないはず。
 大体こういう競争社会でドロップアウトした者を迎えに行くなど考えられない。
 そんな訳で、パニシカが迎えに行くという話は完全にフィクションである。