第46話 ジジイの回顧録:エロの向こうに九天使

2007年10月、その頃ジジイは、ネットでのエロ動画収集に精を出していた。


ジジイ「さぁ晩飯も食ったし、今夜もエロサイト巡りや(クリクリ)」
友人「マメやなぁ。そんなこと続けてて、PCがウィルスにやられたりせんの?」」
ジジイ「やられるやられる。もう何回HDD初期化したことか」
友人「ぴゃー。それでも懲りへんとは恐るべしエロ魂」
ジジイ「はっはっは、そんなに褒めるなよ」
友人「(別に褒めてへんがな)そやけど、そんなにエロ動画収集してたら、観るのかて大変やろ」
ジジイ「いや、別に観やせんけどな」
友人「は?」
ジジイ「ワシは収集が趣味であって鑑賞が趣味な訳やないからな」
友人「どおゆうこっちゃ。訳判らんがな」


しかし、このジジイのような収集マニアはネット社会においては格段珍しいものではなかった。


ジジイ「この世にワシの知らんエロ動画が存在することが許せんのじゃ。そのためにはHDDなんテラでも投げ打って集め続けるのじゃ」
友人「わー、病気や。病気の人やぁ」
ジジイ「(クリクリ)お、今日も新作が上がってる。なになに『Girls’ Generation』? 洋ピンか? …なんかエロそうなタイトルやから、これを収集してみよう(ポチ)」
友人「相変わらず若い子好っきやなぁ」
ジジイ「若い子も好きってゆうてくれ」


ほどなく『Girls’ Generation』と名がついたその動画ファイルは、ジジイのHDDに納まった。


友人「せっかく収集したんやし、ちょっとくらい観てみようや」
ジジイ「えー、観たいの?」
友人「ワシかて”Girl”に興味あるがな」
ジジイ「なるほど、いつまでも帰らんとこの部屋におる思うたら、そうゆう魂胆か」
友人「Girl!、Girl!(どんどん)」
ジジイ「わかったわかった、夜中に壁を叩くな。家のもんが起きて来るって」
友人「おっと、それはまずい。Girl!、Girl!」←小声
ジジイ「仕方ない、洋ピンを収集することはあまりないし、ちょっとだけ観るか(ぽちりん)」


  


友人「おおうっ、これは!?」
ジジイ「うーむ、どう見ても洋ピンではないな」
友人「しかし、エロやないかと言われれば、そこはかとなくエロい気配も感じないこともないぞ」
ジジイ「そうかぁ? まぁ人間その気になれば天井のシミにさえ欲情するものやからな」
友人「なるほど、さすが軍隊経験者や。含蓄のある言葉やね」
ジジイ「誰が軍隊経験者やねん。それにしてもこの言葉は聞き慣れんなぁ」
友人「韓国語ちゃうか? ハングルっぽいテロップも表示されとるし」
ジジイ「やっぱりそうか。韓国にもこんなミニスカひらひらのアイドルっておるんやね」
友人「おるんやろうね。それにしてもなんだかダサい衣装やな」
ジジイ「まぁ韓国は2〜30年遅れてるゆう話やから、これがせいいっぱいなんやないの?」
友人「そうかも。…おおっ!」
ジジイ「わっ、いきなりハイキックしたで。み、見えたかも(どきどき)」
友人「や、やるな、韓国人(どきどき)」


数日後


友人「お、この間の『Girls’ Generation』、まだ消してへんの? あのハイキックが結構お気に入りと見たで、げっへっへ」
ジジイ「ちゃ、ちゃうねん(汗)。こ、このファイル、フルHDやってん」
友人「HD?」
ジジイ「そうやねん。(ぽち)ほら、めっちゃ画質がキレイやろ」
友人「あー、ホンマやね。こないだはそこまで気付かんかったけど。そやけど、ちょっとコマ落ちしてへんか?」
ジジイ「そやねん、GOMプレイヤーではちょっと重いのかも。せっかくやからVLCやKRプレイヤーとか試して、フルHDをきちんと見れる環境を整備しよう思うてるところや」
友人「ふーん」
ジジイ「つまりこのファイルはテスト台として使うてるだけや。ワシがもっとる動画ファイルで、今のとこフルHDはこれだけやからな」
友人「なるほどー。まぁ考えたら、一生分くらいAVストックしとる自分が、今更韓国人のパンチラくらいで興奮するはずないモンな」
ジジイ「あ、当たり前やないか、あは、あはは」


ジジイ「…とはゆうたものの(ぽち)」
♪전해주고싶어 슬픈 시간이
 다 흩어진 후에야 들리지만
ジジイ「ついつい、何度も再生しちゃうのは何故やろう? 妙な中毒性があるなぁ」
♪사랑해 널 이느낌 이대로
 그려왔던 헤매임의 끝
ジジイ「この真ん中で踊ってる子、めっちゃ可愛いよな。なんて名前やろう…ネットで調べてみようかな。
  …えーとGirls’ Generationと(ぽちぽち)
  なになに、韓国じゃ少女時代ゆうんかぁ、…へぇ、まだデビューしたばっかりなんやなぁ(ふむふむ)」


ジジイ「さぁ、今日も飯食ったし、少女時代の動画でも観ようっと」
♪이렇게 까만밤 홀로 느끼는
 그대의 부드러운 숨결이
ジジイ「あー、ここでマイクを受け渡しとるのか。よく見ると、いろいろ発見があるなぁ。
  ワシはモー娘。もAKBも知らんけど、こうゆうフォーメーションでめまぐるしく入れ替わって歌うことって、日本じゃやってへんのちゃうかな?
  この子ら、歌も上手いし、実はすごい実力のあるグループなのかもしれんな」


2007年11月、折しも、ジジイの周りで韓国にまつわるイベントが巻き起こっていた。


ジジイ「日韓文化フォーラム?」
偉い人「そやねん。今年から我が社とMBCで毎年開催する予定やねん。第一回の今年は映像による交流がテーマや」
ジジイ「ちゅうことは韓国からゲストを呼ぶってことかいな?」
偉い人「呼ぶ呼ぶ。イ・ユンジョンを呼ぶ」
ジジイ「誰やねん?」
偉い人「なんでも今年えらい流行ったドラマのプロデューサーでMBC初の女性Pらしい」
ジジイ「へー」 ※この頃はまだPD=プロデューサーだとみんな勘違いしていたのだ。
偉い人「あと、笛木優子とかリ・ボンウとか呼ぶ」
ジジイ「誰やねん?」
偉い人「ワシもまだよお把握しとらんのじゃ。資料映像あるから勉強しといてくれ」
ジジイ「へーい」


ジジイ「てな訳で資料映像を借りてきたのだ」
友人「ほぉほぉ、『OLDBOY』やて? 映画か?」
ジジイ「なんでもカンヌでグランプリをとった作品らしい」
友人「マジか? 『シュリ』みたいな奴かな?」
ジジイ「知らんがな。韓流に興味ないから『シュリ』とか観てへんし。この映画かて仕事やから観る訳で…(ぽち)」


     『OLDBOY』 日本版予告


友人「…」
ジジイ「…(汗)」
友人「ちょ、ちょっと面白かったね」
ジジイ「ちょっとどころか(がくがく)…あかん、これは100点満点や。すごい映画や」
友人「ひゃー、そこまで褒める?」
ジジイ「ワシは映像には真摯な男やねん。映像を観れば総てが判る。
  これほどの映画を生み出す、韓国という国。日本に2〜30年遅れているなどとんでもない話や。
  これを素直にリスペクトして学ばねば、日本は世界にあっという間に追いていかれるぞ!」


ジジイ「と言う訳で、隣国に対する根拠のない偏見をなくして観ると、少女時代もまた新鮮に見えて来るかも」
友人「少女時代?」
ジジイ「例の『Girls’ Generation』じゃ」
友人「まだ捨ててなかったのか」
ジジイ「それが、最近はなんだか毎日観ちゃうし、ネットで新しい映像を探して来たりするねん」
友人「うーむ、自分、最近の韓国映画好きといい、少女時代といい、ここひと月でエライ変わり様やな」
ジジイ「ワシが一番驚いとるよ(くりくり)。さぁ、今日も少女時代の動画を探そう…おっ、新曲出たのか?」


    どーん!
     少女時代 『少女時代』


ジジイ「わっ、可愛い!」
友人「ホンマや。エライ垢抜けたなぁ」
ジジイ「この赤い服の子、誰や? 例のセンターの子以外にも、こんな可愛い子おったんやな」
友人「ちゅうか、みんなめっちゃ上手いな。このトレーナーに書いてあるのはメンバーの名前なんやないか?」
ジジイ「そうやな。センターの子は…YoonA、ユンアて読むのかなぁ」


それから1週間かけて、ジジイは全員の顔と名前を完全に覚えたのである。


ジジイ「うーむ、エロの向こうにこんな天使ちゃんがおったとは。韓国恐るべし!」
友人「自分の年甲斐のない情熱の方がよっぽど恐ろしいわい」