第33話 You Bring Me Joy

こんこん、がちゃ
ドワン「お呼びでしょうか?」
スマン「おう、呼んだとも。自分、アカデミーの授業を休みたいんやて?」
ドワン「へえ、ひと月程お暇を頂こうかと」
スマン「あかんがな。生徒も増えて、アカデミーの経営もやっと軌道に乗ってきたところやで」
ドワン「それはわかってますが…」
スマン「ははぁ、去年うちがスターライトを買収してSMの経営になったんが気にいらんのやな。そんで嫌がらせを…」
ドワン「違いますって」
スマン「ほな、なんや?」
ドワン「ワシはヴォイストレーナーである前に、歌手やゆうことです。
  キム・ヒョンチョルにいさんが、ワシのためにええ曲仰山書いてくれはったし、そろそろアルバムを作ろうかと思てますねん」
スマン「そんなん授業やりながらでも出来るやろ」
ドワン「集中したいんです。先生かて歌手やってはったんやからおわかりでしょう?」
スマン「わかりまへんな。ワシの若い頃は歌手だけやってるなんて状況やなかった。
  ドカチンやっては歌い、風俗の呼び込みやっては録音し、麻薬のついでにLPも売り込むゆう生活やったんや」
ドワン「はぁ(そんなやばいことやってたんか?)」
スマン「貴様ら若いモンは、ワシらのそんな努力の上にあぐらをかいておるだけじゃ。
  レコーディングに集中したいから仕事を休むやと? け、6500万年早いんじゃ!(キーッ)」
ドワン「ごっつ機嫌悪いでんな」
スマン「おう、めちゃくちゃ悪いで。さっきカツアゲにおうたからな」
ドワン「カツアゲ?」
スマン「そやねん。本社ビルの通用門に小学生ぐらいの女の子が突っ立っておったから、”お嬢ちゃん、神話の出待ちなら無駄やで。今日は日本に行っとるはずや”て親切に声かけたったんや。
  そしたら、そのガキ、ニヤリと笑って”ウチが用あるんはワレじゃけえ”言いおって」
ドワン「(ギク)こ、湖南弁…まさか」
スマン「あれ、湖南言葉やったんか? よおわからんかったから”はぁ?”ゆうたら、いきなりボディにパンチや」
ドワン「…(汗)」
スマン「くの字に折れたワシの身体を倒れ込まんように支えた、思うたら内ポケットをまさぐっておったんやな。
  ”われ、よーけぇ銭持っとるじゃが。とぼけたらおえんで”とかなんとかゆうて、財布を持っていきよったんじゃ」
ドワン「後を追わなかったんですか」
スマン「追うか! あの手際はプロやぞ、これ以上痛い目にあいたないわ」
ドワン「そ、そうすか」
スマン「まったく、あんなヤカラがこの上品な狎鴎亭の街をウロウロしとる思うたら、安心して散歩も出来へん。
  アカデミーの生徒にも用心するようゆうとけや」
ドワン「へえ(そのアカデミーの生徒の仕業て知ったらどんな顔するんやろ?)。それはそうと、休暇の件ですが」
スマン「あかんゆうたらアカン警察や。ヴォイトレとして大した実績もないのに、自分の歌手業を優先するなんて論外や」
ドワン「(むか)お言葉ですが、ワシの生徒はみな優秀です。今期から教えてる中学生の少女などは、SMの練習生に匹敵すると思うとります」
スマン「寝言は寝てからゆえや。練習生は学校もいかんと朝から夜までレッスン漬けやで。
  それにプロになるゆう心構えが、金出して通うとるアカデミーの坊ちゃん嬢ちゃんとは桁違いじゃ。比べモンになるか」
ドワン「アカデミーの子がみんな金持ちゆう訳やないでしょう。金出して来とるからこそ、真剣な子もおります」
スマン「ほんならその練習生より上手いゆう子に会わせてみろ。ワシが直接確かめてやる」
ドワン「い、いや、それはちょっと…」
スマン「へーんだ、強がってゆうたものの、やっぱり自信がないんやな。チョン・スンウォンのパーボ、パーボ!」
ドワン「く、くっそー(カツアゲの話さえ聞かんかったら、喜んで会わすのに)」


キム・ヒョンチョル「スンウォンくん、スンウォンくん」
ドワン「あ、これはヒョンチョルにいさん。わざわざアカデミーに来られたんでっか?」
ヒョンチョル「ええ曲出来たからなぁ。授業が終わるまで待てへんかったんや」
ドワン「そら、すんまへんなぁ」
ヒョンチョル「ええって、ええって。ちょっとピアノ借りるで。とにかく聴いてみて」
ドワン「はぁ(休憩中やし、まぁええか)」
♪ポロローン
ヒョンチョル「♪あ〜
生徒たち「(ざわざわ)誰や? めっちゃ上手やなぁ」
生徒たち「先生の友達?」
生徒たち「プロちゃうか?」
♪ポリリン…ン
ヒョンチョル「どや?」
ドワン「ええ曲ですやん。これ、ワシのために?」
ヒョンチョル「そや。新しいアルバムに入れたらええ」
ドワン「おおきに…そやけど、この歌詞、視点がふたつあるような」
ヒョンチョル「お、気付いたか。実はこれ、デュエット曲やねん。ウンミ姐さんとでも歌うたらどや?」
ドワン「えー、ワシ今までデュエットなんてやったことないですで。それにこの歌詞やったらウンミさんのイメージやないでしょう」
ヒョンチョル「そうゆうたら、えらい可愛らしい歌詞になったな。おい、ちょっと、そこのちびっ子」
テヨン「…(キョロキョロ)ワシけ?」
ヒョンチョル「そや、自分ちょっとここの部分、歌うてみて。楽譜は読めるか?」
テヨン「得意やないけど、今聴いとったけぇの」
ヒョンチョル「お、耳コピか。生意気な(笑)」
♪ポロローン
ヒョンチョル「♪感じますか? 星たちの願いを 広がる僕の想いを
テヨン「♪聞こえますか? 胸の中の響きを 高くて青い私の話を
ヒョンチョル「…(ほお)」
生徒たち「わー、テヨンちゃん、すごーい(感嘆)」
ドワン「(ドワーン)う、上手い…こんなに上手かったっけ?」
テヨン「♪You Bring Me Joy.You Bring Me Love…

ふたり「♪私たちは、知っているんです(じゃん)
生徒たち「わーっ(パチパチパチ)」
ヒョンチョル「(ふう)自分、小学生のくせにめっちゃやるやんけ」
テヨン「ワシぁ小学生違うけーの。こう見えても15歳じゃ」
ヒョンチョル「(ぴゃー)マジか? まぁ15歳くらいにはぴったりの歌かもしれんな」
ドワン「そ、そうっすね」
ヒョンチョル「師匠の自分が一番驚いててどないするねん」
ドワン「いやまぁその…(こ、これは練習生どころやないぞ。少なくともSMにここまで歌える女子はおらん)」
ヒョンチョル「ちびっ子、自分、名前は?」
テヨン「キム…キム・テヨンゆいますぅ」
ヒョンチョル「ほなキム・テヨン、この曲は自分にやるわ」
テヨン「は?」
ヒョンチョル「上手に歌うた褒美や。後はどうするか、ドワン先生に訊いてみるんやな」


ぐぅぅ…
テヨン「やっと開いた。重い扉じゃあ」
ドワン「これぐらいやないと音が漏れるからな」
テヨン「(キョロキョロ)これが録音スタジオ…すげー」
ドワン「これでも安い施設や。BoAや神話が使うとるスタジオは、何倍も大きくて最新の機材が仰山あるで」
テヨン「へー」
ドワン「SMの歌手になれば、いきなりトップ待遇や。こんな場末のスタジオを見ることもないやろう」
テヨン「じゃけんどワシにとっては生まれて初めてのレコーディングじゃー。今はここが世界一の場所ですけ」
ドワン「そ、そうか」
テヨン「ワシぁ、BoAに憧れて歌手になろう思い切ったけんど、同い年でスターになれる思うほど世間知らずじゃないけ。
  今は週に一度の機会に、一所懸命おのれを磨く時期じゃ考えてたんです。
  それやけん、こうして中学の間に商業アルバムのレコーディングに参加できるなんて、ぼっけー幸運じゃ思うとります」
ドワン「それでええ。ワシのために上手く歌おうなんて思う必要はない。その時学べることを最大限吸収していったらええんや」
テヨン「へえ(笑)」

ぽち
テヨン:♪小さな森の中の歌 あなたは信じられますか… ←プレイバック
ドワン「うーん…」
エンジニア「もう1テイク、録りますか?」
ドワン「いや、これはこれで悪くないような」
テヨン「これはおえんですわ。もう一回やるけぇ。お願いします!」
ドワン「そお? なら録り直すか」

ドワン「お、もう8時やないか。テヨンはここまでや。また来週な」
テヨン「ええ? ようやっと喉の調子が上がって来たのに」
ドワン「あかん。自分のおとんと約束したんや。一度例外を認めるとズルズルなるからな」
テヨン「ちぇ」
ドワン「それに今から帰っても夜中やろ、早いってこともないで。ちゃんと宿題して寝るんやで」
テヨン「へーい。したらお先に失礼しますんじゃ」
エンジニア「バイバイキーン! …めっちゃ真剣な子ですね。意識だけはもうプロ級ですやん」
ドワン「そやな…(そんな奴がなんでカツアゲなんかするんや。それも選りに選ってスマン先生を。テヨンのパボめ)」


ナレーション「そんなこんなで、The Oneの第2集アルバムは完成したのだった」


     The One Ft. Kim TaeYeon 『You Bring Me Joy (Part 2)』


こんこん、がちゃ
ドワン「お呼びでしょうか?」
スマン「おう、呼んだとも。自分の新しいアルバム、聴かせて貰うたで」
ドワン「おや、もう見本盤届いたんでっか?」
スマン「ついさっきな。自分がデュエットするなんて珍しいやんか」
ドワン「やる気はなかったんですけど、ヒョンチョルにいさんの曲がよかったんで、つい」
スマン「一緒に歌ってる女の子は、うちのタレントやないな?」
ドワン「へえ(まさか、ワシの個人アルバムでもSMの子を使えゆうんやなかろうな)」
スマン「(デレー)めっちゃええやん」
ドワン「はい?(コケッ)」
スマン「なんとも素直で清純なヴォーカルや。あんな子、何処で見つけて来たん?」
ドワン「ああ、そ、それが以前ゆうとったアカデミーの生徒ですわ」
スマン「(がーん)なんやてぇ? プロやないんかい?」
ドワン「まだ中学生ですが、週一のトレーニングで砂が水を吸うように学んでいます。今回のレコーディングも大きな経験になったと思いますで」
スマン「た、確かに、うちの練習生に匹敵するレベルの歌唱力や。それは認めよう」
ドワン「ありがとうございます(それ以上やっちゅうねん、バーカ)」
スマン「そやけど、これほどの子が何故うちのオーディションを受けないんや? プロになる気がないんか?」
ドワン「いえ、プロ志向の塊ですよ」
スマン「じゃあなんで…ははぁ、ルックスやな? 歌は上手いけど、オアシズの光浦みたいな顔しとるんやろう?」
ドワン「まぁ確かに普段眼鏡かけてますけど、不細工って程やないですね。むしろ父親は将来美人になると保証してます」
スマン「わ、わからん。そんな子がオーディションを受けに来んなんて考えられへん。なんでや?」
ドワン「私にも判りませんよ」
スマン「まさかYGやJYPを受ける気やないやろな。これは直接会うてみるしかないか。
  よし、スンウォン、その子をワシに紹介せえ」
ドワン「ええっ?(マズい、これはマズいぞ)」
スマン「どーか、Sっぽい美少女でありますように(南無南無)」